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第三十七章 ザークラーイの会戦 Ⅴ

 ザークラーイ山の周辺を埋め尽くす人、鉄甲。

 軍鼓管楽がこれでもかというほどの音量で奏でられ。くうを震わせる。

 それにあわせるかのように、寄せ手の心も昂ぶってくる。

 ソケドキア軍の騎士や兵士たちは、血走った目で、ザークラーイ山を見据えていた。

「これは、守るによいところに布陣したものだな」

 シァンドロスは山容をながめて、ぽそっとつぶやいた。東西と南は断崖絶壁。のぼるには北側の斜面しかない。が、その前には天然の堀のように、川が流れている。深さを調べさせたところ、人の胸まであるという。橋は破壊され、使えなくされていた。

 それに対し、すぐさま橋をつくるよう命じたのはいうまでもない。

「確かに天険の要塞というべき山容。しかし、篭るのはわずか一万。力で押せば、長くは持ちますまい」

 イギィプトマイオスは鼻息も荒く進言する。彼もまた、「かかれ!」の号令を待ちかねていた。

ペーハスティルオーンも同じく、号令をかけるよう、シァンドロスにうながす。

 十五万の軍勢は手ぐすねひいて、号令を待ちかまえていた。

 

 そこから少し離れたところで、カンニバルカ率いる五万の軍勢が、ザークラーイ山周辺を行進していた。

 近くにドラゴン騎士団らがいないかと思ったが、それらしき軍勢はいなかった。思ったより遠くへと離れているようだ。

 それらの軍勢は、ザークラーイ山を攻める寄せ手を奇襲、あるいは夜襲する魂胆なのであろう。カンニバルカが自分に軍勢を預けさせるように言ったのは、ドラゴン騎士団と戦いたいというのもあるが、それを見越したのもある。

「将軍、これからいかがなさいますか」

 部将が、カンニバルカの判断を求めてくる。まさかザークラーイ山の周辺をぐるぐる回るわけでもあるまい。

 と思っていたのだが。

「こうして、まわっておるか」

 と、言うのだから、部将はやや意表を突かれた顔をした。

「いずこにおるかも知れぬドラゴン騎士団めらは、いかがなさいますか」

「黙っておっても、来るじゃろう。まさか山を見捨てて逃げることもあるまい」

 確かにその通りかもしれないが、部将としては、寄せ手に加わって戦い、手柄を立てたかったこともあって、ドラゴン騎士団が来るのを待つというカンニバルカの考えが悠長に思えてならなかった。

「我らは、このまま山をまわるぞ!」

 そう号令して、カンニバルカの率いる五万の軍勢は、山を、それを包囲するソケドキア軍の周辺をぐるぐる回ることになる。


「かかれ!」

 シァンドロスの号令が、轟いた。

 川に橋がかけられ、それを騎士や兵士たちが駆けて渡ってゆく。

 東西と南の断崖絶壁は、梯子をかけられるところまでかけて、軽装の兵士がよじのぼろうとする。遠くから見れば、菓子に蟻が群がっているようだ。

 矢を射掛けたいが、山頂までとどきそうもなく。下手をすれば味方の背中を射てしまいそうなので、矢は放たれなかった。

「ようし、よっくひきつけてから、手厚く歓迎してやれ!」

 ジェスチネは叫んだ。

 ソケドキア軍の寄せ手は北の斜面に集中し、橋を渡る。とはいえ、いっぺんに渡れるわけではないので、川の向こうには長い行列ができている。

 橋を渡った騎士や兵士たちは、獣のように声を張り上げて壁に迫る。

 リジェカの部将は壁ごしにそれを見て、

「射よ!」

 との号令をくだせば、矢がはなたれて、ソケドキア軍を襲う。

 運の悪い騎士や兵士たちは身体に矢が突き刺さり、悲鳴を上げてのたうちまわり。さらに運の悪い者は急所を突かれて、即死だった。

 それでも、ソケドキア軍は負傷した味方や、しかばねを乗り越えて壁に押し寄せてくる。と言いたいが、橋を渡れる人数は限られているので、壁に近づける者の数は、軍の総数にくらべてはるかに少なかった。

 そこを、矢で狙い撃ちであった。

「退け! 一旦退け!」

 北面を任された部将はやむなく、一旦退却の号令を出さざるを得なかった。それから、矢を防ぐために、数人がかりで持つような大きな盾を急いで作らせた。

 東西と南の断崖ではというと。

 ソケドキア軍兵士は崖をよじのぼり、山頂に迫ってくる。矢を射掛けることなく、ジェスチネとイヴァンシムはそれを見下ろしていた。

「おうおう、よじのぼって来てやがる」

 よくやるもんだ、と感心しつつ、ほくそ笑みながら、ジェスチネはつぶやいた。

 モルテンセンもそれをひと目見ようと顔をのぞかせようとするが、

「危のうございます」

 と、イヴァンシムに止められてしまい。砦の中にいるように言われた。

 軍鼓管楽の響き、敵味方の喚声を耳に、モルテンセンは近衛兵に身を守られて。主将の個室で円卓に肘をつき、戦況の成り行きを見守っていた。

 兵士は目を剥いて崖をよじのぼり、山頂に迫ってくる。

 もう人間ふたり分のところまで迫っているだろうか。兵士たちは急峻な崖をよじのぼるので、それこそ必死の形相だ。

「思えばかわいそうな奴らだが。これも戦争だ。仕方がねえ」

 ジェスチネはそうつぶやくと、兵士らを見渡し、

「やれ!」

 と叫んだ。

 ジェスチネの号令とともに、兵士たちは半身ほどもある岩をころがし。それを崖から突き落とした。

「げっ」

 崖をよじのぼる兵士たちの悲鳴が響く。

 岩は崖から落とされて、兵士たちを直撃した。

 顔面を、頭部を岩に直撃されて。兵士たちはたまらず、岩とともに落下し。さらに下に続いていた兵士には人間と岩の双方が直撃して、続々と落下してゆくのだった。

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