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第三十七章 ザークラーイの会戦 Ⅳ

 不敵で愉快そうな笑みを、シァンドロスはカンニバルカに向けた。

「そう言うと思った」

 皆がザークラーイ山を攻めようというのに、カンニバルカはドラゴン騎士団と戦いたいという。

「何を言うのかと思えば。カンニバルカ殿よ、ドラゴン騎士団など、放っておけばよい。どのような悪あがきをしようとも。この二十万の軍勢を相手に何ができる」

「その通り。ドラゴン騎士団など、雑魚にもひとしい」

 ペーハスティルオーンにイギィプトマイオスはカンニバルカに食って掛かる。ドラゴン騎士団を相手にするということは、軍勢を割くということだ。それは無駄なことのように思われるのだった。

 それに、二十万という大軍で戦うのはソケドキア軍にとってもはじめてのことだった。その二十万をひとかたまりにして攻めれば、いかなる敵も踏み潰せると思っているようだ。

 だが、カンニバルカはそんなことは考えていない。

「いかに二十万といえど、油断はならん。忘れたか、ガウギアオスを」

 負けじとカンニバルカは声を張り上げた。新参者であるという遠慮など、どこにもない。

 ソケドキア軍自身、わずかな軍勢でタールコ軍三十万を打ち破っているではないか。逆に言えば、戦いようによっては数の不利など跳ね返せるということだ。それを自分たちでやっておきながら、いざ逆の立場になると忘れてしまう。

(おめでたい餓鬼どもじゃのう)

 カンニバルカは、やや苦々しくペーハスティルオーンとイギィプトマイオスを見据えた。

 シァンドロスは不敵な笑みを浮かべて、臣下たちのやりとりを眺めていたが、

「よかろう。カンニバルカよ、そなたに五万を預ける。ドラゴン狩りがしたければ、するがよい」

 と、言った。

「な、なにを言われます」

 ペーハスティルオーンとイギィプトマイオスは驚いてシァンドロスを見る。

 シァンドロスがカンニバルカの我儘わがままを受けいれるなど、思いもしなかった。モルテンセン王は細首を差し出している。それをもぎ取れば、ドラゴン騎士団が残ろうともリジェカの征服は決まるというものではないか。

「敵に策ありと、オレは見た。他はそうではないのか。王こそ、雑魚にひとしい。ドラゴン騎士団こそ、一番の強敵ごうてきではないか」

 ペーハスティルオーンやイギィプトマイオスと逆の考えを、カンニバルカは持っているようだ。敵が覚悟を決めたなら山になど篭らず、ドラゴン騎士団を先頭に、悲壮な玉砕戦を敢行することも考えられる。

 だがそうせずに、幼い王が己の身をおとりとして山に篭るのであれば、そこになにかの策があると考えられるのではないか。

 あまりにも、見え透いたことをする、とカンニバルカは考えた。が、その見え透いた策略が意外なほどに効果を示し、皆、ザークラーイ山のモルテンセン王に首ったけだ。

 ドラゴン騎士団らは遊撃軍として山を離れたという。カンニバルカにとっては、そのドラゴン騎士団らこそ、警戒すべきであった。

「カンニバルカの言うこと、一理ある。ドラゴン騎士団どもを食い止めよ」

「は、ありがたき幸せ」

 カンニバルカは一礼をする。

 ペーハスティルオーンやイギィプトマイオスなどは、何かを言おうとしたが。シァンドロスはそれらを目で制した。

「ほんとうなら、オレがドラゴン騎士団と戦いたいくらいだ。奴らとの戦い、面白そうだからな」

 シァンドロスが決めたことには、誰も逆らえなかった。

 こうして、カンニバルカは五万の軍勢を与えられ。遊撃軍として、ドラゴン騎士団と当たることになった。


 ソケドキア軍は進む。

 途中軍を割いて、カンニバルカ率いる遊撃軍五万が、本軍十五万と並んで進軍している。

 ベラードを破壊してから、数日して国境を越えてアウォーヴァー地方に入り。ザークラーイ山を目指した。

 途中で通り過ぎる町や村などの集落は無抵抗で、ソケドキア軍を、おびえた目で見送っていた。

 進むうちに、ザークラーイ山が見えてきた。

「囲め!」 

 シァンドロスの指示により、ソケドキア軍十五万はザークラーイ山を取り囲んだ。そこからやや離れたところで、カンニバルカ率いる遊撃軍五万が、その様子を見守っていた。

 山頂の物見の塔の兵士は、

「ソケドキア軍、襲来!」

 と、声高に叫んでいた。

 来た。ついに、来たのだ。

 モルテンセンは思わず物見の塔にのぼろうとして、危ないとイヴァンシムに止められてしまった。

 ザークラーイ山の騎士や兵士たちに、一気に緊張がほとばしった。

 陽光に照らされて、鉄甲の輝きが波打っているのが山頂から眺められた。まるで人と鉄甲の津波が押し寄せてきたようだ。

 ソケドキア軍は士気を鼓舞するために軍鼓管楽を盛んに奏でている。それは、聞く者の腹を打った。

「戦闘準備!」

 主将であるジェスチネは叫んだ。もとより、ザークラーイ山の騎士や兵士たちは各所につき、ソケドキア軍を迎え撃つ準備をしている。

 いざこうして大軍に囲まれてしまうと、わかっていたこととはいえ、底知れぬ緊張は禁じえなかった。

 軍鼓管楽を耳に、シァンドロスらはザークラーイ山の山容を見据えていた。東西と南は絶壁で、足でのぼれそうなのは北側だけであるが。その北側は堀のように川が流れ、橋はすでに壊されていた。

 壁も築かれ。門扉もかたく閉ざされている。

 山そのものが、要塞化されていた。

「ほう」

 シァンドロスは感心したように、山頂を見上げていた。

 ペーハスティルオーンにイギィプトマイオスら臣下やソケドキア軍の騎士や兵士たちは、鼻息も荒く、突撃の号令を待っていた。

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