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第三十七章 ザークラーイの会戦 Ⅰ

 ソケドキア軍がリジェカに向けて進軍する中、それを迎え撃つ準備が着々と進められていた。

 国境地域のアウォーヴァー地方ザークラーイに、ザークラーイ山という山がある。その山は峻険な岩山で、東西と南を絶壁に囲まれ、北は傾斜はどうにかゆるやかで登るとすればそこしかない。そして北には自然の堀のように、川が流れていた。

 イヴァンシムは、いずれ来るであろうソケドキアの侵攻にそなえ、人を遣って国境地帯周辺を調査し、守りに適した地を探し出していた。

 そこで、アウォーヴァー地方のザークラーイ山に目をつけた。峻険にして、そこに砦を築けば守るに易く攻めるに難い天険の要塞となるであろう。

 水の心配もあったが、そばに川が流れており、ということは地下水も豊富。調査の結果、数箇所に、湧き水が発見された。

 まさに、ザークラーイ山は篭城に適した山であった。

 イヴァンシムは前々からモルテンセン王に進言し、このザークラーイ山に砦を築かせており。いずれ来るであろうソケドキア軍の侵攻を迎え撃つための拠点としていた。

 国境地帯で待機していた二万五千のリジェカドラゴン騎士団およびリジェカ国軍は、王命とイヴァンシムの指示により、すぐさまザークラーイ山へと向かい、砦に入った。

 といっても、峻険な岩山である。数万におよぶ軍勢がすべて入るには狭いため、砦入りしたのは一万ほどであった。その一万の軍勢の指揮は、ジェスチネが執る。

 残り一万五千は、オンガルリドラゴン騎士団およびオンガルリ国軍と合流すべく山麓にて待機していた。

 やがて、モルテンセン王をともなって、オンガルリドラゴン騎士団およびオンガルリ国軍三万五千がザークラーイ山の麓にやってきた。

 モルテンセンも戦場に身を置く、ということで、小さな甲冑を身にまとい。自ら手綱をとって騎乗していた。

 まだ身体ができあがっていないので、大きな馬に小さな身体が乗り、愛嬌すら感じさせるものがあった。

 だがその顔は凛々しく引き締まり。その姿を見た兵士たちは一様に笑顔になり、 

「国王陛下のために!」

 と、勇ましくモルテンセンを迎えた。騎士や兵士たちは、右手の拳をあげて歓声をあげ。旗を持つものは、旗を大きく振った。

 王の存在は士気を左右する。

 このたびの戦いで、モルテンセンも戦場に身を置くことを聞いた騎士や兵士たちは、その勇敢さに心を打たれ。

「なんとしても、王のため、国のために、身命を捨てて戦い。勝利をもぎ取ろうぞ」

 と、戦意を振るわせたものだった。

 数の不利の不安などどこへやら。オンガルリ・リジェカ連合軍の士気は、高かった。

 そう、このたびの戦いにおいて、モルテンセンもザークラーイ山に入るのだ。ザークラーイ山は天険の要塞とはいえ、無視をされてそのまま都メガリシを目指されては意味をなさない。

 そこで、攻め入るソケドキア軍の戦力をザークラーイ山に集中させるために、モルテンセン自らが寄せ餌となったのだ。

 国王がおとりとなるなど、どこの国の戦史上にもなかったことであろう。モルテンセンはそれをしようというのである。

 これに心打たれぬ騎士や兵士があろうか。

 ソケドキア侵攻は国の危機である。その危機にあって、イヴァンシムの進言があったとはいえ、否やもなく受け入れたモルテンセンの覚悟も、相当なものであった。その覚悟を、騎士や兵士たちも痛いほどに感じ入り。己もまた、覚悟を決めるのだった。

 モルテンセンの左右には、コヴァクスとニコレット。やや後ろにイヴァンシム。その周囲を近衛兵と赤い兵団の兵士十名がかためる。

 騎士や兵士たちは彼らにも、熱い歓声を送った。

 特にドラゴン騎士団の両翼ともいえるふたりの存在は、騎士や兵士の士気をさらに高めた。幾度の戦いや革命を乗り越えオンガルリ・リジェカの国防軍事の頂点に立つコヴァクスとニコレットの人気と信頼もまた、高かった。

 ザークラーイ山は騎士や兵士たち、オンガルリ・リジェカ連合軍六万の轟かせる歓声を受け、じっとたたずんでいる。

 モルテンセンは歓呼の声援を受けながら、馬を降り、砦に入った。それにコヴァクスとニコレット、イヴァンシムにダラガナ率いる赤い兵団も続く。

「おお」 

 思わず声をあげる。

 ザークラーイ山にて唯一歩いて登れる北の斜面は登山道が整備され、川には橋が架けられていたが、簡素なつくりで、すぐに壊せるようになっていた。これは敵に橋を使わせないための措置である。

 登山道のある北面には石壁が敷き詰められており、敵の侵入を防ぐようになっている。

 登山道を上りながら、イヴァンシムからザークラーイ山についての話を聞く。ザークラーイ山は天険の要塞というだけでなく、各所に罠も設置している。特に北面は、敵も目をつけそこからのぼってくるであろうから、幾重にも罠を張りめぐらせている、ということだった。

 また登山道も、まっすぐではなく、山頂の砦まで曲がりくねっており、敵の侵入速度を鈍らせることに貢献している。無論馬で駆け上がることができぬよう、各所に段差を設けている。

 言うまでもなく、この山で篭り戦う騎士や兵士たちは皆徒歩立ちである。馬は入れない。

「よくつくったものだ」

 もう勝ったかのように、モルテンセンは感心しきりだった。

 モルテンセンはこのザークラーイ山にて、一万の兵とともに篭り、ソケドキア軍の軍勢を誘うのだ。

 もうすっかりドラゴン騎士団の一員のように居座っている龍菲ロンフェイは、軍勢の隅に身を置き。士気高い騎士や兵士たちを見つめ、ザークラーイ山を静かに仰ぎ見る。

 歓声の轟きにやや驚いたか、コヴァクスから譲り受けた龍星号が身震いして、吐息を漏らして。首筋を優しくなでてやる。

(コヴァクスたちは、どのように戦うのかしら)

 聞けば、敵は二十万の大軍だという。それを相手に六万の軍勢で迎え撃とうという。そして、兵法の一環として王みずからをおとりとし、この山の砦に敵戦力をおびき寄せるのだという。

 これを聞いたとき、西方の世界にも、策士はいるものだとすこし感心したものだった。西も東も、いざいくさとなれば、同じように考えをめぐらせるものなのだ、と。

 それは、先のガウギアオスの戦いにも見たことだった。

 このたびの戦いは、そのガウギアオスの戦いに比べればまだ戦い易い方なのだろうと、龍菲は見た。

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