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第三十五章 流れる者 Ⅲ

 早速根城の糧食などの荷をまとめ。

 ムスタファーらは分捕った山賊の根城を引き払い、ソケドキア領となった西方へと向かった。

 そのころ、シァンドロス率いるソケドキア神雕軍もドラゴン騎士団と雌雄を決するために西へと進軍していた。

 東征途上ではあるが、オンガルリ・リジェカの連合およびドラゴン騎士団が勢力を拡大するソケドキアの動向に目を光らせている。それのみならず、タールコとの不可侵条約の条件のために、ソケドキア領内に入り。イギィプトマイオス率いるソケドキア軍と戦い、これを徹底的に叩いたものであった。

 いかにオンガルリ・リジェカの二ヶ国にドラゴン騎士団に野心がなく自ら攻め込むことはないとはいえ、放置しておけることではなかった。

 なにかのきっかけで、ソケドキアに攻め込むことがまったくないと言い切れるだろうか。

 時は乱世である。

 時代が、ドラゴン騎士団を動かしソケドキアに向かわせることはないか。

 シァンドロスは考えをめぐらし、オンガルリ・リジェカの二ヶ国を征服し、ドラゴン騎士団を壊滅させ、後顧の憂いなく東征を進めようとしていた。

 季節は春から夏へと移り、太陽が昇れば新緑はまぶしく光りは照りつけ肌を焼き、汗を噴き出させようとする。

 シァンドロスは行軍中考える。

 東征は思いのほか進んだものの、ドラゴン騎士団との戦いはそうはいかぬであろう、と。

 おそらく、多少なりとも苦戦を強いられ、時間もかかるかもしれない。

 冬になれば、寒さ厳しく、空から降る雪は防壁となり。進軍をはばむ。そうなれば、リジェカ・オンガルリの二ヶ国の征服はさらに長引き、その分東征も遅れてしまう。

 だから冬になり雪が積もる前に、オンガルリ・リジェカを征服しておきたかった。

 征服地の統治には、ガッリアスネスを残してきた。心にシァンドロスに服従しきれぬものがあるようだが、そういった私心抜きに征服地をよく治めてくれるであろう。

 ともあれ、ソケドキア軍は、ひとまずイギィプトマイオスの待つ旧ヴーゴスネア地域の都市ベラードを目指していた。

 その軍勢の数、七万であった。が、ソケドキア本国はもちろん、エラシア地域の諸ポリス、征服した旧ヴーゴスネア地域の旧アヅーツに駐屯する軍にも出兵を命じ、それらもベラードに向かい。

 最終的にその兵力は二十万にいたるであろう。

 

 ムスタファーらは表街道を避け、人目を避け裏街道を通って西へ西へを歩を進め。

 ソケドキア領に入った。

 ソケドキア領とはいえ、かつてはタールコ領だったのである。だから彼らは地理に明るく、自在に人目を避け山中を動き回った。

 さてそれからどうするか。

 どこか拠点となる場所がほしい。ということで、先にやったように、手ごろな山賊をこらしめ根城を分捕ろうと、獲物を探し求めていた。

 山賊探しもさほど苦労せず。ついてきた兵士の中に、山賊退治にかかわった者がおり、その者の案内で山賊の根城をつきとめ。

 一気に攻め立てて、山賊どもを追い払い、根城を分捕ったのであった。この根城も木造の簡素なもので、百余人が雑魚寝し雨露をしのぐことができるくらいのものだった。が、今の境遇を思えば、贅沢も言っていられない。

 ともあれ、糧食もあり、この根城をしばしの拠点とすることになり。数名の兵士が近辺の様子を探るため山を下りて、一日経って戻ってきて、報せをもたらせれば。

 ソケドキアの支配下に置かれたタールコ西方の街や村の人々は、獅子皇がソケドキアを追い払うことを強く願っている、ということであった。

 マルドーラの蜂起および皇帝即位や、ムスタファーがふしだらな獅子皇であるなどという話はソケドキア領となった西方にまでいたっていないようだった。

 報せを聞いたムスタファーの脳裏に、閃くものがあった。

「そうだ。ソケドキアに奪われた西方地域をオレたちで奪還し、新たなタールコを建てるのだ。皆の衆に異存はないか」

 根城にて、百余名の騎士や兵士にムスタファーは語りかけた。

 ついてきた者たちも、その話を痛快そうに聞き、

「異議なし!」

 と嬉しそうに応えた。

 話は決まった。

 彼らの顔は希望に輝いていた。ムスタファーのもとで新たなタールコを建国することが、イムプルーツァをはじめとする、ついてきた者たちの希望であった。

 だが現状としては、兵力などなきにひとしい。

 その現状を、イムプルーツァはムスタファーやついてきた兵士や騎士に言えば、その現状にいまさら気づいたようにうつむく者もいた。

 だがイムプルーツァとしては、現状に甘んじよ、としての発言ではないのは言うまでもない。

「かつてドラゴン騎士団がしたように、我らが先頭に立って革命を起こそう」

 ムスタファーはそう言った。

 イムプルーツァにパルヴィーンは、得たり、と笑顔をほころばせた。そう、その言葉を期待していたのだ。まさかいまいる百余名で捨て身の攻撃を仕掛けるのか、と心配もあったが、ムスタファーはそんな非現実的なことは考えていなかった。

 いかに愛しきエスマーイールを失い、心に傷を負おうとも、無為の戦いはせず。試練を機に新たな道をゆこうとするムスタファーにイムプルーツァは王者の素質を見出していた。

「革命!」

 百余名の騎士や兵士は、意表を突かれたように驚きの顔を見せた。革命、とは。

「革命を起こし、革命王となって新タールコを建てるのも、また一興というものでございますな」

 イムプルーツァは声を弾ませて言った。その、革命王という言葉にも、百余名の騎士や兵士は意表を突かれたようであった。

 革命。騎士や兵士らはその言葉を口にし、ざわつきはじめた。

 根城の中は、一気に温度が上がったようだった。

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