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第三十四章 東征 Ⅳ

 ヨハムド率いる第二陣は、ギィウェンとカンニバルカの率いる先陣同士が渡り合うのを左側に避けながら、要塞目指して駆けた。

 それと反対側から、シァンドロス率いる七万の軍勢はマルドーラのいるタールコ軍中軍向かって駆けてゆく。

「や、総大将が出たか」

 大剣を振るいながらも、カンニバルカはシァンドロスの動きをよく見ていた。

「神雕王が動いた。我らはこれより敵軍中を突っ切るぞ!」

 カンニバルカは大喝し号令をくだせば、ソケドキア軍先陣ひと塊になってギィウェン率いるタールコ軍先陣を突っ切ろうとする。

「やつら、我々を突っ切ろうとするか。いかせるな!」

 ギィウェンも敵の動きに勘付き、手勢を動かし数に利あるのを生かし、カンニバルカの先陣を取り囲もうとする。

「皆の衆、我に続け!」 

 大剣振るい、血路を切り開き、カンニバルカはタールコ軍先陣を突っ切ろうとする。左方向へと。

「何ッ!」

 てっきり前方に向かうものとばかり思っていたギィウェンは、取り囲む際にソケドキア軍先陣の前方を厚めに配置しようとしていたのだが。敵はそこへは行かず、薄めの左方向にゆこうとするではないか。

 兵卒らもカンニバルカ率いる先陣の動きに意表を突かれてしまった。

 そこにくわえて、カンニバルカの大剣は立ちはだかるタールコ軍兵をことごとく血祭りにあげて、吹き飛ばしていった。

「なんという男だ」

 ギィウェンは遠目からカンニバルカが大剣振るうのを眺めていたが、とても一騎打ちをする気にはなれなかった。

 我ながら臆病な、と思いつつ、

「取り囲め! そのカンニバルカなる裏切り者を取り囲んで、討ち取れ!」

 と叫んだ。

 その指示通り、兵士たちはカンニバルカを取り囲もうとするが。いかにゆく手をさえぎろうとも、大剣の前には風の前の塵にもひとしく。振り払われるばかりだった。

 ついには、カンニバルカを先頭に、囲みを突破し。シァンドロス率いる本隊と合流しようとする。 

 一方で第二陣を率いるヨハムドはソケドキア全軍が自分たちを避けて反対側からタールコ軍中軍へを向かうのを見て、慌てて手勢を引き返させようとした。

「我らを愚弄しおって」

 ヨハムドは怒りつぶやく。だがシァンドロスは、

「下手な采配だな」

 と不敵な笑みを浮かべて言った。

 新皇帝マルドーラは戦の経験が少ない、という以前に獅子皇ムスタファーほどに戦が得意ではないようだ。

 カンニバルカ率いる先陣、ギィウェン率いる先陣の囲みを突破し、シァンドロス率いる本隊と合流しようとする。

 だがそうは問屋が卸さぬと、ギィウェンも急ぎ、

「追え、こうなれば背後から突いてやれ!」

 との号令をくだす。

 シァンドロスは敵の動きをよく見て、剣を掲げ、

「回れ!」

 と号令をくだし。カンニバルカの先陣と合流し十万になった軍勢を反転させ、ギィウェンの先陣に突っ込ませる。

「む、奴らこちらに来るのか」

 意表を突かれたギィウェンだが、ままよと、そのまま己の率いる先陣の手勢をソケドキア神雕軍に当たらせる。ヨハムドも方向転換して、ギィウェンの手勢に加勢しようとする。

 遠くから、この戦いぶりを新皇帝マルドーラは凝視していた。

「イルゥヴァンよ」

「はっ」

「また手勢をゆかせなくてよいか」

「なりませぬ」

「なぜだ」

「ギィウェン殿とヨハムド殿の手勢合わせて十万。ソケドキア軍も同じく十万。同数による渡り合いならば、無理にこれらの兵力を引き割く必要もないでしょう。まずは、戦況を見守りましょう」

「なるほど、わかった……」

 ソケドキア神雕軍とギィウェン、ヨハムドの手勢が渡り合うのを、若き新皇帝マルドーラはじっと見守った。

「やはり、マルドーラは来ぬか」

 ヨハムド、ギィウェンの手勢と渡り合いながら、シァンドロスはマルドーラのいるであろう中軍の方を振り返った。これが獅子皇ムスタファーならば、躊躇なく進み出てシァンドロスと雌雄を決しようとするだろう。

 だがマルドーラには、そんな気概はないようだ。

「マルドーラには、獅子皇のごとき勇気はなし。者ども、若き皇帝に我らの戦いぶりを見せてくれようぞ!」

 シァンドロスは剣を振るい、叫んだ。

 ソケドキア神雕軍の将卒らは「応!」とこたえて、タールコ軍と渡り合い。さらにシァンドロスは、

「マルドーラに獅子皇のごとき勇気なし、と叫べ! 我らの勇気を見せ、新皇帝の臆病を笑ってやれ!」 

 と叫んだ。

 その号令にソケドキア神雕軍の将卒たちは、ギィウェンとヨハムドの手勢と戦いながら、

「新皇帝に獅子皇のごとき勇気なし」

「勇気は我らにあり」

 と叫んでいた。

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