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第三十三章 西方戦線 Ⅳ

 べラードより出陣して数日。ソケドキア軍はついにドラゴン騎士団と相対した。

「にっくきドラゴンどもめ。今日こそ、その牙へし折ってくれるぞ」

 イギィプトマイオスは、アトインビーの掲げる紅の龍牙旗を睨みながらつぶやいた。

 ソケドキア軍側は、くまたかの旗がなびく。ちなみに、神雕軍しんちょうぐんという呼称は神雕王を名乗るシァンドロス自らが率いる場合にのみもちいられるので、イギィプトマイオスが率いる軍勢はソケドキア軍であっても、神雕軍ではない。

 ともあれ、互いの旗をはためかせて、両軍睨み合っている。方角で言えば、北側にドラゴン騎士団、南側にソケドキア軍。

「奴らが二度と攻め込もうと思わぬほどに、今日は勝たねばならん」

 コヴァクスは言った。

 軍監のラハントは、あくまでも旧ダメド奪取を主張し。ドラゴン騎士団がそのことに乗り気でないことを、本国にすでに報告してしまい。本国からもっと強く要請するよう、書簡に書き加えてもいた。

 そのラハントは、あくまでも戦いを見届ける役割であって、実戦で戦わないので後方に下がっている。 

 コヴァクスとニコレット、ダラガナらドラゴン騎士団や赤い兵団の騎士や兵卒らは、相手の出方をうかがっていた。

 コヴァクスのやや斜め後ろに、龍星号にまたがり槍を握る龍菲ロンフェイ

 イギィプトマイオスは剣を抜き、掲げ、

「かかれ!」

 と五万の軍勢ひと塊になって、ドラゴン騎士団に突進していった。軍勢の喚声に、馬蹄、軍靴の轟き胸を打つ。

「きたな」

 コヴァクスとニコレットは相手がこちらに向かってきているのを見て、互いにうなずき合った。

「さあ、ゆきましょう」

 ニコレットが剣を抜き、コヴァクスが槍斧ハルバードを握りしめて掲げると。ドラゴン騎士団は二手に分かれた。

 コヴァクス、ニコレットは騎兵を主とする半数の一万五千を率い、紅の龍牙旗掲げるアトインビーもその中にいて、龍菲もいて、東側へと駆けてゆく。

「今日の戦い、コヴァクスはどのように戦うかしら」

 龍菲はコヴァクスの背中を笑顔で見つめていた。

「な、なに」

 イギィプトマイオスはそれを見て、やや面食らったようだった。

「ガウギアオスと同じ事をしているのか!」

 コヴァクスとニコレット率いる一手、一万五千の軍勢は東へ東へと、紅の龍牙旗なびかせて駆けてゆく。

「おのれ、逃げるのか。追え、追え!」

 部将がひとり、怒声をあげて手勢を率いて追おうとすれば。五万のうちの二万ほどが、紅の龍牙旗を追って東へと駆けた。

「よせ、追うな。踏みとどまれ。隊列を乱すな!」

 イギィプトマイオスは急いで号令をくだすが、間に合わず、部将に率いられて二万ほどの手勢はドラゴン騎士団を追って東へ東へ駆けてゆく。

 これによって、ソケドキア軍も二手にわかれた。

 イギィプトマイオスは、ドラゴン騎士団がなにを企んでいるのか咄嗟に見抜いたが。他の、特に旧ヴーゴスネア五ヵ国人の新規兵らは、見抜けていない。

 紅の龍牙旗を追う部将は、ユオの元将軍で一軍を任せていた。その下は、ダメド、ユオ、ヴーゴスネア、アヅーツのかつての五ヵ国出身の兵卒で編成されていた。

 そのため、意思疎通がうまくはかれておらず。そのうえに、功名心が重なって。大将の指示もまともに受け付けず、手柄ほしさに紅の龍牙旗を追うことを優先してしまった。

 勝てば恩賞を受けられる。そのうえに、ドラゴン騎士団を率いるコヴァクスとニコレットの首を獲れば、恩賞は思いのまま、とあっては功名心に突き動かされて隊列を離れてしまうのも、無理からぬことであったろう。

 ソケドキア軍がわかれて、その一手が自分たちを追うのを見てコヴァクスとニコレットは「しめた」と思った。

 これはイヴァンシムの入れ知恵であった。補給品とともに届けられたイヴァンシムの書簡には、敵の数多数なれどもその兵卒、出身地もばらばらで意思疎通もうまくはかれず統率もうまく取れないだろうことが書かれていた。いわば寄せ集めであるということだ。

 そのうえで、不本意であるかもしれないが、ガウギアオスの戦いにおいてシァンドロスがとった策を模して当たってみてはどうかとあった。

 敵が大軍とはいえ、寄せ集めならば、簡単にひっかかるだろうから試してみる価値はある。

 イヴァンシムはリジェカの王城でモルテンセン王のまつりごとを助けながら、戦場にも思いをはせていたのだ。

「馬鹿め」

 イギィプトマイオスは苦虫を噛み潰すようにつぶやく。あろうことか、さらに一万ほどが、紅の龍牙旗を追って、隊列を離れたのだ。

「ええい、ままよ」

 イギィプトマイオスはどうにか残る二万の軍勢を率いて、そのまま突っ込んでゆく。突進の勢いがつき、とまるにとまれないでいた。

 もはやコヴァクスとニコレットは捨て置いて、目の前にいる一万五千のドラゴン騎士団と、赤い兵団を自らの手で打ち倒すのだ。

「来たぞ!」

 ダラガナは叫んだ。同時に矢が放たれ雨のようにソケドキア軍に降りそそぐ。運の悪い兵士は、矢の餌食となり悲鳴をあげてたおれる。

「勇戦し敵に食らいつき、決して離すな!」

 ひととおり矢を放つと、赤い兵団を先頭にして残った手勢はソケドキア軍に突っ込んでいった。その数の差は五千までに減っていた。ならばどうにか互角に戦える。

「こやつらを打ちのめしてやれ!」

 イギィプトマイオスは叫んで、剣を振るった。

 赤い兵団に、ジェスチネに指揮を任された残りの歩兵を主とするドラゴン騎士団も負けずに勇戦し、ソケドキア軍とぶつかり合った。

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