表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/224

第三十三章 西方戦線 Ⅱ

 そのころアーベラの要塞にてシァンドロスは、早馬に乗った使者が来たことにコヴァクスとニコレットはどんな反応をするのだろうか、と想像して不敵な笑みを浮かべていた。

 おそらく、断るだろう。それでよいのだ。

 ニコレットのことをあきらめきれるわけではないが、無理強いもできぬことはよくわかっている。自分のものにできないくらいなら……。

 ともあれ、アーベラの要塞周辺には本国からの増援の軍勢があつまりつつあった。またバヴァロンから引き上げてくる兵士たちもアーベラに集まりつつあった。

 その数は、いまのところ七万ほどになろうか。

 最終的には十万を越えるほどになるだろう。

 本国へ引き返した軍勢も、増援の軍勢と合流しアーベラの要塞につどっていた。その中にガッリアスネスにカンニバルカもいた。

 ヤッシカッズは乱戦で負傷したため、やむなくトンディスタンブールにとどまることにした。

 タールコにて革命起こり、皇帝代わるの報せはすでに伝わっている。獅子皇ムスタファーは侍女との情事におぼれた挙句に皇后にしようとした、ふしだらな皇帝として第二皇太子と宰相がやむなく立ち上がり国を正した、とのことだが。

 シァンドロスはそれを真に受けなかった。

 宰相か、第二皇太子のどちらか、それとも両方が野心をもって革命を起こし獅子皇を帝位から排したのだろうと踏んでいた。

 獅子皇ムスタファーとは一戦を交えている。どこか抜けたところがあるが、勇敢であることは認めている。獅子皇ムスタファーが帝位についていればこそ、タールコは手強い強敵であった。

 その獅子皇が排せられ、第二皇太子が帝位につき、あらためてソケドキアと雌雄を決しようとしていると聞いたときは、失笑を禁じえなかった。

「このまま獅子皇に戦わせておればよかったものを」

 あざけてシァンドロスは言った。あと一歩というところまで、形勢を逆転されたのだ。その好機をタールコ自らみすみす逃したと思うと、第二皇太子と宰相の程度などたかが知れたものだった。

 獅子皇ムスタファーが寂しそうに百ほどのわずかな人数をともなって、どこかへ行ったのも、そのためだったのだが。その獅子皇に、遅れて討伐令が出ているという。が、それはソケドキアとの戦いの後回しにされるようで、斥候をもって調べてみれば、マルドーラは自ら二十万の軍勢を率いるために軍勢を再編成しているという。

 溢れる野心を抑えきれず、国としての好機を逃すような男に、二十万もの軍勢を率いられるだろうか。

「いよいよ神はオレに加護を与えたぞ」

 シァンドロスは勝利の確信を得て。城砦から、あつまる軍勢を見下ろし不敵な笑み浮かべていた。


 西方、旧ダメドとリジェカの国境地帯において。ドラゴン騎士団は使者をべラードに向けて出し、求婚を断る旨を告げた。

 ベラードにはシァンドロスの信頼する臣下イギィプトマイオスがいる。使者の言伝を聞いて、イギィプトマイオスは怒りをあらわにし、

「ドラゴン騎士団に、覚悟せよ、と伝えよ!」

 と追い払うようにして帰したものだった。そしてそのことを、シァンドロスに告げるための使者を出した。

「馬鹿な奴らよ。神雕王の慈悲を蹴るとは」

 使者は一旦イギィプトマイオスに会い、シァンドロスがドラゴン騎士団に伝えようとしていることを伝えた。そのような慈悲をかける必要があるのか、と思っていたがシァンドロス自身がニコレットを求めているのならやむをえまいと、何も言わず行かせたのだが。

 案の定、ドラゴン騎士団はシァンドロスの慈悲を蹴った。これはつまり、攻め滅ぼしてくれ、と言っているも同然である。

 イギィプトマイオスも、もとよりそのつもりである。先の戦いで敗れた意趣返しもしたい。むしろ、ドラゴン騎士団が、ニコレットがシァンドロスの求婚を蹴ったのは願ったり叶ったりであった。

 また、タールコ国内における革命も伝えられている。さすがにこれには驚きもしたが、そのおかげでシァンドロス、ひいてはソケドキアが助かったことを思うと。

 イギィプトマイオスはソケドキア人としての誇りと使命感をひときわ強く感じずにはいられなかった。

 ベラードに引き返していたイギィプトマイオスは再び国境地帯のドラゴン騎士団と雌雄を決すべく、軍勢を再編し。必勝を期した。

 この戦いの結果によっては、オンガルリ・リジェカの二ヶ国をソケドキアの版図に組み入れることができるのだ。

 それを自分の手柄にするのだと思うと、一度や二度の敗戦でこりるイギィプトマイオスではなかった。

 べラード郊外には、着々と兵士があつまりつつあった。その数は五万を数えた。

 東征に十万以上、西方に五万の軍勢を集められるようになったソケドキアの国力の増強、推して知るべしである。

 やはりトンディスタンブールに、旧ヴーゴスネアの五ヵ国を新たに征服したのは、大きかった。

 

 ベラード郊外に軍勢が結集しつつあるころ、ドラゴン騎士団は動かず。本国からの補給を受けながら、じっとソケドキア軍が来るのを待っていた。

 旧ダメドの奪取は、ラハントが強く説くところではあるが、

「ドラゴン騎士団は奪うための戦いはしない。いかに喉元に刃をつきつけられようとも」

 とコヴァクスとニコレットが強硬に反対したため、ラハントは歯噛みし、このことは本国に報告するからな、とかんかんに怒ったものだった。

 ともあれ、ドラゴン騎士団は、本音を言えば引き返したいが、ソケドキア軍が来るのがわかって引き返せないでいる。国境を北に向かえばリジェカ国内に入る。リジェカを戦場にするのは、避けたかった。

 戦いそのものは避けられそうにないのなら、旧ダメドにはいったところを戦場にするのがせいぜいの抵抗、と言うべきであろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ