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第三十二章 報復と反逆 Ⅶ

「息子よ、見ておるか。父はタールコの革新を推し進めておるぞ」

 ガーヌルグは心で亡き息子に語りかけていた。

 心の渦巻くものは、ガーヌルグに心地よくささやきかける。タールコを革新せよ、と。それは息子のためなのだ、と。

 その革新は、神美帝が継承者とした獅子皇ムスタファーを排し、己の擁立するマルドーラを皇帝にさせて。タールコを生まれ変わらせることだった。そうすることで、マルドーラは魂の解放を実感し、これが己の使命であるとまで思うようになっていた。

 若いマルドーラは文武両道で凛々しいところはあるが、兄に比べやや優柔不断なところがあり。なにかにつけて、ガーヌルグよ、ガーヌルグよ、と相談をもちかけ頼ってくる。

 これも、心の渦巻きを心地よく刺激した。

 もはやガーヌルグは心の中の渦巻きなくしてたちゆかず、心の渦巻きの命ずるがままであった。


 アーベラの要塞の包囲を解き、エグハダァナに向かっていたタールコ軍十万は、バヴァロンの奪還をしていた別の十万の軍勢と合流し。そこに、マルドーラからの使者が来る。

 バヴァロン奪還の軍勢も、マルドーラの挙兵と獅子皇ムスタファーの女性問題は耳に入っている。

 そしてバヴァロン奪還の軍勢やそれを指揮していたギィウェンやヨハムドもまた、獅子皇ムスタファーに失望を覚えて。ソケドキア軍を片付けると、一旦エグハダァナへと引き返していたところだった。

 これらの軍勢をまとめるのは、イルゥヴァンら反ムスタファーに走った臣下たちだった。

 使者が来て、イルゥヴァンはそれと会い。書簡にてマルドーラの意を伝えられる。

 いわく、全軍一旦エグハダァナに引き返し。皇帝マルドーラのもと軍勢を再編し、あらためてソケドキアと雌雄を決するものなり、と。

 イルゥヴァンは、はは、とマルドーラに対するがごとく使者に跪き。軍勢をまとめて、エグハダァナへ向かった。 

 

 タールコにて革命あり。

 第二皇太子マルドーラ挙兵し都エグハダァナを制圧し、帝位につく。獅子皇ムスタファーは、侍女との情事におぼれ、帝位をないがしろにしたため、獅子皇から僭称皇帝として扱われ。

 新皇帝マルドーラから討伐令が出たという。

 その僭称皇帝ムスタファーは、わずかの部下をともなって、ゆくえ知れずになったという。

 ともあれ、タールコに革命あって皇帝が代わった。

 そのことが、旧ダメドの国境地帯に布陣するドラゴン騎士団に伝えられた。

 オンガルリ・リジェカとの不可侵条約はそれまでどおり、条件もそれまでどおり。だから、ドラゴン騎士団はこれまでどおりソケドキアと戦うように、ということも伝えられる。

 タールコから来た早馬の使者は、新皇帝の勅旨を読み上げる。

「……。あいわかり申した」

 コヴァクスやニコレットは一応の礼儀として跪き、新皇帝の勅旨を聞いた。そのそばにはタールコ人軍監のラハント。

 そして内心で驚いていた。

(タールコで革命!)

 あの、大帝国のタールコで。

 そんな思いがふたりの胸をよぎった。

 しかも獅子皇ムスタファーが侍女との情事におぼれて帝位をないがしろにしていたなど、初耳だ。ニコレットはムスタファーと一騎打ちをしたことがある。あの精悍な皇太子に、そんなことがあるのだろうか。疑問に思えて仕方がない。

 ふたりに苦い思い出がある。

(まさか、タールコにイカンシやカルイェンのような奸臣が出たのか)

 ふと、そんなことを考えた。

 また、使者はソケドキアの暴虐にして無残なバヴァロンでの破壊も憎しみを込めて伝えた。タールコとしてソケドキアの蛮行許しがたし。ドラゴン騎士団は是が非でも、最低でも旧ダメド地域を奪取し、ソケドキアの討伐に協力するように、と強く付け加えた。

 ラハントはかしこまって聞いている。故国でそんなことが、まさかあの獅子皇が、と驚くことしきりだった。

 そして、バヴァロンの破壊から、ソケドキアを憎む気持ちは強まる。

 バヴァロンの破壊に関しては、コヴァクスとニコレットも、

(度し難し)

 とシァンドロスに対し怒りを覚えざるを得ない。

 シァンドロスの破壊に対する躊躇のなさ、容赦のなさは底なしだ。そんなシァンドロス、ソケドキアの巨大化を防がねばいずれオンガルリ・リジェカにも難が及ぶであろう。

「しかとお伝え申したぞ」

 使者は軍監のラハントに書簡をわたすと、帰っていった。

「おのれシァンドロスめ。我がタールコに攻め込んだばかりか、バヴァロンを破壊するなど。許さぬ。決して許さぬ」

 ラハントは怒りをあらわにする。

「それにしても、獅子皇は侍女との情事におぼれ、その侍女を皇后にしようと企てていたなどと。なんという自覚のなさ。そのようなお方であったのか」

 と獅子皇ムスタファーへの失望もあらわにすると、コヴァクスとニコレットの方に振り向き。

「ドラゴン騎士団には是非お骨折りいただきたい。ソケドキアの蛮族どもをこれ以上増長させるわけにはいかぬ」

 と強く言った。

 一方的に言われて、コヴァクスとニコレットは面白くない顔をする。確かに条件であるから、出陣はした。しかし牽制にとどめて、領土まで奪うつもりはなかった。

「何度も言ったとおり。オンガルリ・ソケドキアはタールコの臣下国になったわけではない。命令はやめていただこう」

「しかし、バヴァロンが破壊されたのだぞ。オンガルリ・リジェカもいずれ攻められ、同じ悲劇に見舞われぬとも限らぬ」

「そうかもしれないが、だからといって、ドラゴン騎士団は奪うための戦いはせぬ」

 コヴァクス、ニコレットとラハントはしばし睨み合った。

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