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第三十二章 報復と反逆 Ⅵ

「ドラゴン騎士団はいかなる試練にも打ち克った」

 そう言うと、獅子皇ムスタファーの心に悲しみが消えつつ、何かが起き上がろうとしていた。

「イムプルーツァよ」

「はっ」

「オレは、帝位を捨てる」

「なんですと!」

 この発言には、イムプルーツァはおおいに驚いた。まさか帝位を捨てるなど、そんなことを言うなど夢にも思わなかった。

「帝位を捨て野に下り。一時は流賊となろう。そしてオレの国を、新しい国を打ち建てるのだ」

「なんと……」

 大胆というか、突飛というか。気が触れたのか、とさえ思った。

 獅子皇、いや、もう獅子皇ではないムスタファーはイムプルーツァの方を振り向いた。その目は真剣そのものだった。

 これはようするに、反逆に対し反逆でかえす、ということになるのだろうか。

「ゆこうか」

「どこへゆかれます」

「風にでも聞いてみるさ」

 まるで吟遊詩人のようなことを言うと、エスマーイールのなきがらを抱き上げ。幕舎を出ると、愛馬ザッハークに乗せ、それから自分が乗り抱きかかえた。

 エスマーイールはムスタファーの胸の中で眠っているようだった。

「オレにはどのくらいついてきそうだ」

「それは、わかりません」

 兵士たちはムスタファーなど目もくれず引き返している。イルゥヴァンや他の臣下らの指示のもと、エグハダァナに戻り。新たな皇帝を擁立するためだ。

 それから、改めてソケドキアと雌雄を決する。

 ムスタファーはその風景を眺めながら、ザッハークを歩ませた。

「オレは、自由になる。物好きだけついてこい」

 周囲にそう叫ぶと、エスマーイールを抱きかかえてザッハークを駆けさせた。あとには、イムプルーツァにパルヴィーンも続く。

 他にも、やはり少数ながらムスタファーを獅子皇として慕っている者もおり。それらが急いであとに続いた。

 その数は百あるかないかだった。たとえ心で慕っていても、生活のためやむなく皆と行動をともにするという者もあろう。

 ともあれ、こうしてムスタファーは野に下り、新しい国を建てるために敢えて自由の身となった。

 

 アーベラの要塞は、ついに包囲網が解かれ。

 シァンドロスは不敵な笑みでタールコ軍を見送っていた。

 気になるのは、ある一団が兵士たちと違う方向へ駆けてゆくことだった。彼らはどこへゆくのだろう。

「あれは……」

 目を凝らせば、獅子皇ムスタファーのようだ。が、遠いためよく確認できないが。どうも、獅子皇ムスタファーのような気がする。

(もし獅子皇だとすれば、どこにゆくのだろう)

 その百あまりの一団は北の方角へ駆けている。エグハダァナへゆくには、西に向かわねばならないのだが。

(これはいよいよただならぬことが起こったようだ)

 シァンドロスはほくそ笑んだ。

「どうなさいますか」

 臣下のペーハスティルオーンがきいてくる。

「このまま、要塞にいて援軍を待とう。それからのことは考えている」

「わかりました」 

 その指示通り、ソケドキア軍はタールコ軍が撤収したあとも要塞に残り。援軍の到来を待っていた。

 

 エグハダァナの王宮にて、皇后シャムスは監禁されていた。

 第二皇太子マルドーラと宰相ガーヌルグの挙兵、反乱の際に命は取られなかったものの。自室に押し込められ、外に出ることができなかった。

「腹違いとはいえ血をわけた兄と弟が争うなど……」

 皇后シャムスはいたく心を痛め、寝込んでしまっていた。なぜマルドーラやガーヌルグが挙兵したのか、話はじかに聞いている。

 エグハダァナ制圧の際、マルドーラとガーヌルグは驚くシャムスに会い。ことの次第を伝え、挙兵のやむなきにいたることを語った。だがシャムスは挙兵に対し、先に言ったことから、批判的であった。

「皇后、ご理解いただけぬのならこちらもやむをえませぬ」

 マルドーラは見張りの兵士をつけ、皇后シャムスを監禁してしまったのだった。

 このエグハダァナには自分の母親をはじめ他の神美帝の側室や、その子である弟、妹がいたが。それらもそろって、見張りの兵士をつけて自室にて監禁したのだ。

 母親は理解をしめしてくれるだろう、と思っていたが。

「なんというだいそれたことを。いまからでも、兵を下げなさい」

 と言うではないか。実の母にこのように言われ、マルドーラはやや失望を覚えてシャムスと同様に監禁してしまった。

 それも、ガーヌルグから、徹底的に戦い抜け、と言い聞かされているからであった。

 中途半端なことをすれば、そこから反撃をされてしまうかもしれぬ。

 幸い民衆の理解は得ている。他の側室や子らの中にも、理解をしめしている者もいた。少しでも理解をしめす者は監禁を解き。

 ともにタールコを治めるための協力を得た。

 まだ若い皇帝マルドーラは、どうすればよいのか咄嗟に智恵が浮かばない。そのため、万事宰相ガーヌルグの言うがまま。

 エグハダァナを制圧し、マルドーラを皇帝にして。ガーヌルグは、己の心の中にある渦巻くものがとても心地よく感じられて仕方がなかった。

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