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第二十五章 起死回生 Ⅴ

 ドラゴン騎士団決起し、革命を起こす。

 そのことは眠りに着いたヴァラトノを起こし。騒然としていた。

 タールコから派遣された代官は飛び起き、寝巻きのまま指揮を執る。といっても、警備兵にはっぱをかけて、ドラゴン騎士団を食い止めよと言うばかり。

 あまりに突然のことに、代官もやや気が動転しているようだった。

 それは、ヴァラトノで隠棲生活を送っていた王族も同じだった。突然の馬蹄の響き人の叫びに驚いて飛び起き。召使いに何事かと聞けば、

「ドラゴン騎士団が決起したそうにございます!」

 と息せき切って言うので、たいそう驚いたものだった。

 驚くとともに、

「ついに……!」

 といたく喜んだのは第一王女アーリアで、第二王女オランと末っ子の王子カレルは、母の胸に飛び込み、小さな身を震わせていた。

 女王ヴァハルラも、我が子を抱きつつ、不安は隠せない。

「お母さま、ドラゴン騎士団が立ち上がって、オンガルリを復興してくれるのですわ!」

 アーリアは目を輝かせて母に言った。

「ドラゴン騎士団が……」 

 ヴァハルラはなぜドラゴン騎士団が立ち上がったのかと、困惑しているようだった。ドラヴリフトとエルゼヴァス夫妻はすでに亡く。その子コヴァクスとニコレットは国を出て、リジェカにいるはずだ。が、そのリジェカもタールコに征服されてしまった。

 で、ドラゴン騎士団はまたも壊滅したという話であったが。

「いったい、なにがどうなっていることやら」 

 もしかしたら、ヴァラトノに残る騎士たちが追い込まれた気持ちになって血気にはやったのだろうか。

 もしこれで鎮圧されれば、自分たちはどうなるのであろう。

 

 庁舎、かつての我が家を目指すコヴァクスとニコレットであったが。無論、ヴァラトノに王族ありということは忘れていない。

「お兄さま、わたくしは王族の方々を」

「おう、頼むぞ」

「あれにございます」

 レリアスが二階建ての邸を指差す。それは庁舎の隣に建てられていた。ニコレットはひとり邸に向かい、残りは迫る警備兵と渡り合った。

「御免!」

 ニコレットはドアを強く叩いた。ドアの向こうから、

「ど、どなたでございますか」

 と言う弱弱しいメイドの声が帰ってくる。

「ドラゴン騎士団、小龍公女ニコレットにございます。王族の方々にお目どおり願いたく参りました」

「しょ、小龍公女」

 メイドはまさかという思いでドアののぞき穴をのぞいた。そうすれば、たしかに、色違いの瞳の少女騎士がたたずんでいる。その色違いの瞳、間違いない、確かにニコレットだ。

「に、ニコレット様」

 メイドは恐る恐るドアを開ければ、ニコレットは素早く中に入った。それと入れ違いに、メイドは急いでドアを閉めた。ドアの向こうから喚声と刃のまじわる金属音、そして断末魔の叫びが聞こえて、メイドは肝を冷やす。

「女王と王女、王子はいずこに。案内して」

 奥にいる別のメイドに命じれば、召使いは「はい、はい」とまるで幽霊でも見るかのようにニコレットを見ながら、二階の部屋に案内する。

 部屋のドアの前まで来たとき、

「ニコレット!」

 アーリアは声をあげてドアを開けた。色違いの瞳をまじまじと見つめて、

「ニコレット、生きていたのね!」

 と抱きつく。

 一階でのことは、二階にまで聞こえてきて。アーリアは胸を弾ませて、階段を上る音を耳にしてドアを開けたのだった。

「王女、おひさしゅうございます」

 アーリアを抱き返しつつ、部屋の奥を見れば、ふたりの子を胸に抱く女王ヴァハルラの姿。

 ヴァハルラは心臓が口から飛び出るほどに驚き、目を見開いてニコレットを見つめていた。

 ふたりの子、オランとカレルもおずおずと顔を上げてニコレットを見つめる。

「に、ニコレットではなですか」

「はい。ニコレットにございます。女王さま」

「生きていたのね」

「はい」

「して、何用があって来たのです」

「お迎えに上がりました。祖国オンガルリを復興し、王族の皆様に再び王城におわしていただくために」

「やはり、そうでしたか」

 ヴァハルラは憂いを含んだ目で、ニコレットの輝く色違いの瞳を見つめていた。


 コヴァクスらが庁舎にたどり着いたとき、人数は膨れ上がり気がつけば五百人ほどが、街の非戦闘員の住人も含めて、庁舎を取り囲んでいた。

 棲家も兼ねた庁舎を目にし、コヴァクスの脳裏に幼き日々の思い出が蘇る。しかし、いまはそんな感傷にひたっている場合ではない。

 庁舎および王族の邸周辺には警備兵があつまり、ドラゴン騎士団を寄せ付けぬと、包囲されながらも刃を向けている。深夜に不意を突かれ、警備兵もよく戦ったが、押される一方で。ついに代官のいる庁舎、王族の邸を取り囲まれる事態となった。

 マジャックマジルの掲げる紅の龍牙旗が、夜風にはためく。

「あれは、紅の龍牙旗ではないか」

 警備兵も紅の龍牙旗のことは聞き及んでいる。それは汎用の龍牙旗と違い、先のバゾイィー王から賜った特別な旗である。その旗があるということは、ドラゴン騎士団は健在ということであった。

 警備兵らは狐につままれた思いだった。ドラゴン騎士団はリジェカで再編されるも、壊滅したのではなかったか。

 ヴァラトノにいた、ドラゴン騎士団の騎士たち、騎士の身分を捨てた者たちや街の住人でさえ紅の龍牙旗に触発されて立ち上がって、いまの包囲網の中にいる。

 ドラゴン騎士団は壊滅していなかったということなのか。

「我ら革命を起こせど、無用の流血は望まぬ。抗わずだまってタールコに引き上げるのなら、見逃してやろう。代官よ、どうする」

 コヴァクスは叫んだ。

 叫びを聞いた代官は歯噛みして、拳を強く握りしめた。

「やられた」

 ドラゴン騎士団はもちろん、カンニバルカをも、強く憎んだ。

 リジェカへの出征のおり、代官はドラゴン騎士団の騎士たちも出征に参加させるよう要望したのだが。

「旧主に遠慮し、まともに戦わぬであろうから、連れて行かぬ」

 と言われた。

 しかし、オンガルリはタールコの占領下に置かれ。いざとなれば、オンガルリ人もタールコの帝国民として戦わねばならぬ。代官は再三、ドラゴン騎士団の騎士を出征に参加させるように要望したが、最後までつっぱねられ。

 結局、タールコから来た部将や兵卒で主に構成された軍勢によってリジェカへと赴くこととなったのである。

 この革命が起こるまで、結果としてリジェカを征服したのだからよしと思っていたし。リジェカで再編されたドラゴン騎士団も壊滅したという話もヴァラトノに届き。

 残っていた騎士たちはひどく落ち込んで、萎縮するだろうと見た。

 旧主を強く求める騎士らが国外へ脱走したが、これを捜索しながらも、行った先で儚く野垂れ死にするであろうと楽観していた。

 なので、まさか蜂起が起こるとは思わなかった。

 だが騎士たちは萎縮せず、カンニバルカの留守を狙って蜂起をしたのだ。

「こうなったのも、カンニバルカのせいである。無理にでも騎士たちを連れてゆけば、こんなことにならなかったというのに」

「どうなさいます」

 部下の兵士が代官にそうたずねるが、代官は咄嗟に応えられない。

 救援を要請しようにも、その救援が来るまでに自分たちは討たれてしまうだろう。気の利いた警備兵が最寄の代官に救援を要請にいっていたとて、同じことであろう。

 リジェカが征服されたことで代官は気を緩めてしまい、そこを突かれてしまった格好でもあった。

 警備兵もあっという間に討たれたか、かなわぬと逃げ出してしまった。

 しかし、代官にもタールコ人としての誇りがある。おめおめと逃げ出すなど、どうしてできよう。

「かくなるうえは……」

 覚悟を決めようとした、そのときであった。

「何者か!」

 という叫びに続き、

「げえ」 

 という断末魔の叫びが庁舎の置くから響き、代官はぎょっとして声の方を向いた。

 兵士たちも驚き、声のした方へランプを向けた。そうすれば、黒髪に黒い瞳の、白い衣をまとった女がひとり、闇からランプの光にすくい出されるようにしてあらわれたではないか。

「な、なにやつ」

 兵士は剣を女に向け、斬りかかった。が、女の手が素早く動いたと思えば、掌が兵士の顎を強く打って。兵士はもんどりうってたおれて、動かない。

「なんじゃこれは」

 代官は唖然と女と兵士のなきがらを交互に見る。おのれ、と数人の兵士が女に一斉に飛び掛った。しかし、女は動じず落ち着いたもので。

 舞うように優雅で、それでいて素早い動きで、掌で兵士を打ち倒していった。

 打ち倒された兵士は皆たおれて、うごかなかった。

「タールコへ帰るか。ここで死ぬか。選びなさい」

 女は黒い瞳でじっと代官を見据える。

 すいこまれそうなものを覚えて、同時に恐怖も覚えて。

「帰る、タールコへ帰る」

 咄嗟にその言葉が口を突いて出た。

「ほんとうね。もし嘘だったら、彼らと同じことになるわ……」

 その言葉を残して、女は闇に消えた。

 代官と残りの兵士は、なきがらを目にしながら、その場にへたりこんで動けなくなった。

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