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第二十四章 末路 Ⅱ

 都は血塗られていった。

 処刑の嵐が吹き荒れ、その果ての民衆蜂起。だが、しかし、蜂起はヂシラッカ率いる守備兵や、まことのリジェカ人を自認する人々によって押さえつけられ。

 数多の血を流しながら、鎮圧されていった。

「無念……」

 蜂起した人々は口々に無念の言葉を吐き、息絶えて。しかばねを積み重ねていった。

 その様子を遠くから眺めていた国境警備兵はほっと安堵し、急いで王城へと駆けながら、

「タールコ軍襲来!」

 と告げた。

 告げながら王城へ駆け込み、カルイェンに謁見し、タールコの襲来を告げた。

「来たか」

 カルイェンは鼻で笑い、待っていたと言わんがばかりにほくそ笑んだ。蜂起を鎮圧した守備兵やそれを率いたヂシラッカの士気も高い。

 タールコ軍の襲来を知っても、

「返り討ちにしてくれる」

 と鼻息も荒かった。

 カルイェンはすぐさまヂシラッカを呼び寄せ、タールコ軍を迎え撃つよう命じた。

 意気高いヂシラッカである。

「ご期待に応え、異邦人どもを一掃し。その帰り道にフィウメを落としてごらんにいれましょう」

 と高らかに宣言した。カルイェンに、そばにひかえるヴォローゾにふたりの尼僧も満足そうにうなずいた。

「異邦人、売国奴どもの反乱を鎮圧できたのも、神のご加護があってのこと。タールコの異邦人どもも、神のご加護あって、きっと返り討ちにできましょうぞ」

「まったく。ヴォローゾ様の仰せのとおり、神のご加護をたまわり、ヂシラッカまこと光栄にございます」

「さあ、ゆけ。無謀なタールコ人どもを血祭りに挙げて、王を喜ばせてくれ」

「カルイェン王よ、どうぞご期待ください」

 ヂシラッカはその場を退出し、すぐさま迎撃軍の編成に当たった。その編成の最中、自らまことのリジェカの、王のお役に立ちたいと、多くの若者たちも志願したので、ヂシラッカ喜びそれらも編成に加えた。

 迎撃軍の数、一万。政変後初めての戦いであった。

 タールコ軍の数は警備兵から一万ほどであると聞いている。数は互角、ならば神の加護を受け、かつ優秀なまことのリジェカ人で構成されたまことのリジェカ軍が勝つのは火を見るより明らかである。と、誰しもが思った。

 迎撃軍は蜂起した人々の無念の表情をたたえた、積み重ねられたしかばねを横目に、意気揚々とタールコ軍を迎え撃ちにいった。


 リジェカの政変は旧オンガルリ・タールコにも伝わった。その時、残っていたドラゴン騎士団の面々は大変驚いたのは言うまでもない。

 なにせガウギアオスでの勝利が伝わり、皆我が事のように喜んだ。それが一転、反乱によりリジェカに政変が起こり処刑の嵐が吹き荒れているというではないか。

「小龍公に小龍公女はどうなるのであろうか」

 と、皆、気が気でなかった。

 冬、雪を掻き分け遭難覚悟でリジェカにゆこうとした者もあった。しかしそれらは、あのカンニバルカによって引き返させられてしまった。

 曰く、小龍公と小龍公女を信じろ、と。そう言われたから、黙って機を待つことにしたのだが、

「もはや待ってはおれぬ。もうなんと言われようとも、オレはリジェカへゆき、小龍公と小龍公女のもとへ馳せ参じるのだ」

「そうだ。おふたりに少しでも力添えし、リジェカの反乱軍を制圧し、オンガルリを復興するのだ」

 これに、老騎士のマジャックマジルも加わった。

「わしも、老骨に鞭打ち、ゆくぞ。青年の心意気でゆくぞ。座してさらに老いるのを黙って待っていられようか」

 ドラゴン騎士団の面々は、決心し、リジェカへと向かった。その数は四十七人。

 ドラゴン騎士団といっても、反乱軍として征伐をうけたのをはじめ、オンガルリがタールコの占領下に置かれるとともにあきらめと臆病心とにとらわれ、騎士の身分を捨てたものもすくなくなかった。

 そのため、人数をどうにか集めに集めても、四十七人がいっぱいいっぱいであった。

 彼らは自らを、ドラゴン騎士団の四十七士と名乗った。頭領は最年長のマジャックマジルであった。

 闇夜に紛れ、警備の目をくぐり抜けて、国境を抜けてリジェカへと向かい。道すがら情勢をさぐり、反乱軍に追われた王はフィウメという街にいるということを聞きつけ、すがる思いでそこを目指した。


(あいつらは、今ごろどうしとるかいのう)

 カンニバルカは馬上ふとそんなことを考えながら、タールコ軍を率い都メガリシを目指していた。

 そう、このタールコ軍、なんとあのカンニバルカが率いているのだ。

 途中の町や村は、抵抗をせずにすんなりと通れた。が、そこで目に入ったのは、凄惨な処刑の跡であった。

 フィウメを除く国中で、異邦人、売国奴狩りがおこなわれては、処刑されていることは、カンニバルカも知っていた。

 町や村に柵で囲まれた処刑場がつくられ、そこの土が血のためか色が濃くなっているように見えた。

「とまれ!」

 カンニバルカは全軍停止の下知を下す。

 通りかかった町で軍勢を止め、町長まちおさを呼び、国の様子や処刑の様子を聞くためである。

 町長は震えながら兵士に伴われてカンニバルカの前に引き出され、おそるおそる、質問に答えていった。

 反乱による政変があり、王がカルイェンになったことは、あらかじめ仕入れていた情報と同じであった。それ以上に興味をそそったのは、異邦人、売国奴の処刑であった。

「まず神の火を被告人に当てます。被告人が熱がらねば、その者はまことのリジェカ人であり、熱がれば異邦人、売国奴なのでございます」

「なんじゃそれは」

 神の火、聖職者にして異端審問官であるヴォローゾが起こした火を、被告人に当て反応次第で処刑するという。

「我らはただ、処刑のための処刑をしていたのではありませぬ。あくまでも、神の裁量を経て異邦人、売国奴を処刑していたのでございます」

 政変以来、町長、村長も代わった。それらのことごとくが、カルイェンの息のかかった者なのはいうまでもない。

「ということは、オレは神の火に焼かれ。お前は焼かれることはない、ということか」

「……。そういうことになります」

 町長はぶるぶると身体の震えを抑えられないでいた。それもそうだろう。これといって兵もいない小さな町に一万を越える軍勢が居座れば、その町の誰しもが恐れをなすものである。

「その火は聖職者のヴォローゾとやらが起こしたのだな」

「は、はい」

 町長は頭を地面に押し付けるように跪き、カンニバルカの質問に答えていた。

「面白いのう」

 カンニバルカは不敵ににやけた。

「メガリシを制したあかつきには、その、ヴォローゾとやらに神の火を当ててみるか。人が火に焼かれぬなど、見たことがないのでな」

 がはは、とその場面を思い起こし、おかしくなったカンニバルカは豪快に笑った。

 町長は解放された。

「ゆくぞ、進軍!」

 獅子の咆えるような号令が下れば、タールコ軍は馬蹄に軍靴を鳴らし、進軍をはじめた。

 町長や町の人々は、呆然とそれを見送るしかなかった。


 さてなぜカンニバルカがタールコ軍を率いリジェカへと侵攻するのか。

 カンニバルカ、その役目を自ら買って出た。

 タールコからはイクズスという代官が派遣されているのだが、カンニバルカはそのイクズスにリジェカ侵攻を進言したのだ。

 ガウギアオスでの敗北、帝都の制圧、それに続くリジェカ反乱。

 めまぐるしい情勢の動き。カンニバルカも馬鹿ではない。ヴァラトノでのんびりかまえているふりをしながら、情勢をいち早く察知し、これからのことを考えていた。

 ちなみに、ドラゴン騎士団四十七士のことも知っていたが、黙って行かせた。彼らはカンニバルカを出し抜いた、と思っているだろうが、すべてお見通しであった。

 黙って行かせたのは、言っても聞かないだろうと思ったからだ。いかにカンニバルカといえど、状況がリジェカ有利なときに反乱が起こるなど予想できぬことだった。

 それだけ、カルイェンの打ち立てた「まことのリジェカ人」構想、民族主義は突飛なものだったともいえる。

 反乱は予想外であったが、リジェカ、というよりコヴァクスとニコレットの身を案じるドラゴン騎士団の面々がこのまま黙っているわけもなく。危険を冒しても、ふたりを求めるであろうことは想定内のことである。

(まあ、やむをえぬ)

 と、密偵を使い四十七士の動きを察知したものの。これを黙認した。そのわけは、その方が面白いことになりそうだったからだった。

 その一方でルカベストにおもむき、代官イクズスに面会を求め、リジェカ侵攻を進言した。

「帝都陥落の危機転じ、好機到来。いま反乱により混乱に陥っているであろうリジェカに攻め入れば、神美帝の無念をいくばくかでも晴らせるものと存じます」

 イクズスはカンニバルカの進言を聞き、やや思案したが、確かに、ガウギアオスの敗北につづく帝都陥落によってタールコ国中には不安や動揺が広がっている。が、幸いというか、なぜかリジェカで反乱が起きた。

 その混乱のどさくさに紛れて攻め入れば、きっとリジェカは落ちるであろうし。帝都を陥落させた連合軍の一翼を決定的に崩すことができる。

「そちの言い分もっともである。手勢を預けるゆえ、リジェカにゆくがよい」

「御意!」

 こうして、カンニバルカは軍勢を任されて将軍となり、リジェカに侵攻したのであった。

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