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泡沫コンフリクト  作者: 七賀ごふん
白崎鈴真

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9/18

#9



ふと思う。白崎さんはアルファとしてやるべきことをやったのだと。

周りを先導し、期待を背負うリーダー的存在に生まれたアルファに自由を指し示した。アルファのせいで苦しむオメガには精神的サポート、また経済的サポートを施した。

偽善と言えばそれまでだけど、彼はどれだけ嘲笑されてもやめなかった。

アルファの為に成し遂げた事がある。それは凄いことだ。


『まだ一部のオメガからは猛烈に叩かれてるのに、白崎さんはよくやりますよねぇ……』


誰もが呆れに近い物言いで彼を語った。雑誌でもあることないこと書かれたり、彼の本がコンビニのゴミ箱に捨てられてるのを見たりもしたけど、自分の人生を捧げる行為は偽善だけで続けられるもんじゃない。本当に偽善なら、得をしないと分かった瞬間に切り上げるんだ。


過日───鈴真の二冊目が進行した最中、偶然にも飛鳥影昌と顔を合わせる機会ができた。以前から親交のある編集プロダクションと飲み会をした時、飛鳥と親友という編集者がいて、酒のテンションで彼を呼んだのだ。誰もが来るわけないと思ってリラックスしていたのに、仕事帰りに凛と現れた飛鳥に驚愕した。


「初めまして。飛鳥影昌と申します」


「本物だ……」

「は、初めまして……! テレビで拝見するよりずっと背が高いんですねぇ!」


蓮川と来ていた同僚達も背筋がぴんとして、緊張しながら挨拶を交わした。テレビの前では彼のことを散々言いたい放題していたくせに、皆現金なものだ。

飛鳥と仲が良いという髭を生やした編集者は、彼の肩に手を回してビールを一気に仰いだ。

「数年前は無名の会社で、どこに行っても相手にしてもらえなかったんですよ。その頃は俺も編集者じゃなかったので、飛鳥の代わりに営業手伝ってたこともあります」

「あはは、懐かしいな。あの時は本当に助かったよ。ありがとう」

飛鳥の会社が好調になったのは、やはり一、二年の間のことらしい。しかし思っていたよりずっと謙虚な彼の姿勢に、その場にいる全員が好感を持てた。

「大学で知り合ったんですけど、誰も飛鳥がオメガだなんて思ってなかったんですよ。だって成績は常にトップだし、薬飲んでたりもないし? 体調悪くなったことも一回もないからぁ~」

「ちょっと。お前飲み過ぎだぞ」

段々話の内容が濃いものになっていた為、飛鳥は親友の肩を軽く肘で押していた。


しかし、圧倒的な存在感を放っている。見れば見るほど惹き込まれる……そうだ、まるであの人のような。

ついぼうっとして眺めてしまっていた為、視線に気付いた飛鳥と目が合った。

「蓮川さん? 大丈夫ですか?」

「あっ! すみません、ちょっと飲み過ぎたのかな……失礼します」

酒のせいにして、御手洗へ向かう。

うーん、目力があるせいか見つめ合うのは何か苦手だな。

トイレの鏡台に手をつき、鏡に映る自分を眺める。ほのかに頬が紅潮し、仕事でミスした時のような情けない顔をしていた。

もし目の前にベッドがあったら、数秒で夢の世界へ行ける。でもこの飲み会は今後の仕事にも影響してくるだろうし、水を飲んで気を引き締めないと。

「あの……」

「あふぁあっ!」

背後から掛けられた声に、自分でも笑ってしまうほど驚いてしまった。鏡に映る青年は依然として落ち着いている。それがまた虚しさを助長させる。

曲がったネクタイを直し、ゆっくり振り返った。

「飛鳥さんも御手洗でしたか。すみません、どうぞどうぞ」

「いえ。蓮川さんの顔色があまり良くなかったから様子を見に来たんです。大丈夫ですか? もし良かったらタクシーを呼びますよ」

「いやいや、そんな酔ってないので大丈夫です!」

というか、初対面なのにそこまで気にしてくれていたのか。感謝と申し訳なさでいっぱいになる。




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