#7
予想通り、若きイケメン社長・飛鳥影昌ブームは到来した。大手サイトが取り上げたことにより彼の知名度は跳ね上がり、ファンクラブまで立ち上がった。フォロワー数は瞬く間に増加し、今では鈴真を抜いている。自社の登録社員数も跳ね上がり、紹介している求人案内数が追いついてないように見えた。
書籍はやはり他社に持っていかれてしまったが、なにかと鈴真が引き合いに出されるのでこちらの売上も地味に伸びているのが僥倖だ。
モニター越しの紹介動画では、彼は非常に落ち着いた様子でマイクを握っていた。その左手の薬指にはシルバーリングが輝いている。
『飛鳥さんをオメガの救世主と呼ぶ人もいるようですが、どう思いますか?』
『……とても有り難いことですが、私はあくまで自分らしく、自分がしたいことをしてきただけです。自分が抑圧されることはもちろん、オメガの方が我慢していることも耐えられなくて今の会社を立ち上げました。最近はアルファの方からアドバイスを求められることもあって、恐縮しきりです』
声のトーンや表情からも、秘めた能力を隠しきれてない。努めて軽い調子で返しているが、話題をコントロールして相手の記者を牽制しているようだ。先に紹介されなければ、彼がオメガと気付く者はいないだろう。
『ありがとうございます。では最後に、飛鳥さんの今後の目標をお聞かせください』
『そうですね……。先ずは将来に不安を感じている方の為に、会社を大きくして、幅広くサポートしたいと考えています。それからもっと多くのことに挑戦したい。執筆や講習もそうだし、趣味や仕事、そして恋愛も』
『あ。もしかしてお相手がいるんですか?』
『えぇ、一応。……その人を支えたいから頑張ってる、というところもありまして。まぁ共に高め合うライバルのような関係なんですけど』
「なんだ相手がいるのか」と同僚は頬杖をついた。
「そういえば指輪してますね。独り身なら女性ファンはさらに燃えたでしょうに!」
「そうだな」
「しっかしオメガで社長じゃ、相手のアルファは完全に養ってもらう側ですね。それも何かアレだなぁ」
「……」
アレ、というのは……有能なオメガと結ばれると、自分達は惨めなのか。それも偏見だと思ったが、今は黙っておいた。
専業主夫を悪く言うことと一緒だ。男は働くのが当たり前で、女は家を守るのが仕事。でも女性は前線で働く権利があるし、男性が子育てや家事をするのも大切なこと。
家を守るアルファも良いじゃないか。……なんてことを考えて、何故自分がそこまで真面目に考えてるのか分からなくなった。結婚の予定どころか相手もいない自分にはしばらく無縁の話だ。
そういえば白崎さんも、婚約者がいるのに仕事一筋な生活をしてる。きっと相手は理解のある人なんだろう。仕事に打ち込む彼を献身的に支えることが好き、または仕事に奔走する姿が好き、と語る人は多い。
世間を騒がし忽然と姿を消したアルファと、彗星のように現れた天才オメガ。立て続けに展開される世評に違和感を覚えるけれど、私情を挟むのが仕事ではない。
……などと思いながら、結局彼を捜す自分は相当疲れている。
三ヶ月後、蓮川はようやく鈴真を山奥の中学校で見つけた。そこではオメガが集められたクラスがあり、数は少ないものの皆鈴真を慕っているようだった。彼はカウンセラーとして度々訪れ、彼らの話を聞いていた。
「あれぇ、蓮川さんじゃありませんか。お久しぶりです。お元気でした?」
「ご無沙汰してます。元気です……っていうか、貴方ずっとこんなことしてたんですか。連絡がとれないから、てっきり危険な裏社会で生きてるのかと」
「ひどいな。一体私を何だと思ってるんですか」




