#6
アルファとオメガは減っていく。音も立てず、最期はひっそりと消える。
まずは自分探しの旅に出て、本当にやりたいことを見つけよう!
そう綴られたブログが公開された日から、本当に自分探しの旅に出る大学生が急増した。それもほとんどがアルファで、自身のSNSで発信している。
白崎鈴真に影響された人達が、自分の肩書きを捨てて好きなように生きている。
これは良いこと……なんだよな?
吉報も凶報も、日々の業務に追われる蓮川の元へ舞い込んできた。中には「息子の人生を狂わした」等とクレームしてきた者もいた。それは出版社ではなく本人に直接言ってほしいところだが、当の鈴真は消息不明だから仕方ない。
連絡は一週間に二、三とれるものの、自分の仕事に奔走して滅多に人前に現れなくなったのだ。その為世間を騒がせた青年は、今や都市伝説のような扱いを受けている。
「白崎鈴真とは何だったのか? ……だって。面白いなぁ~この記事。人物っていうより異常現象みたいな扱いされてますよ」
晴れやかな午後、同じ編集部の同僚が雑誌を手にひょこっと顔を覗かせてきた。他社の週刊誌だが、四ページに渡って鈴真の特集が組まれている。
「なまじ顔がいいからアイドルやモデル扱いなんだよなぁ。蓮川さん、最近白崎さんと連絡とってるんですか? 新しい本の話は?」
「それが全く音沙汰なしで……最近は施設にも顔を出さないから、執筆どころじゃないんだ」
「あらら。そんな本格的に仕事してるんじゃこっちに戻るのは難しいかな。まぁこれから一世を風靡するビッグチーズもいますよ。ほら」
同僚は目の前のモニターを傾け、ある人物を映し出した。
「飛鳥影昌。イケメンでどっかの若い俳優さんみたいだけど、なんと社長なんですよ。オメガを積極的に雇用してる、人材派遣の社長。そして、彼自身オメガ」
調べてみると二ヶ月前に一冊自伝を出してる上、他社と新たな本の企画が持ち上がっているらしい。これは良い新人を逃がしてしまった。またオメガは容姿が整った者が多いが、彼は特に……眉目秀麗という言葉がぴったり当てはまる。
「確か彼も白崎さんと同じぐらいの歳なんですよ。経営者としての手腕がすごいみたいだから、下手すると白崎さんより人気が出るかもしれませんね」
「それは、アルファより優れたオメガだから?」
「ええ。そっちの方が意外性あって、話題になるでしょ? オメガ達の希望の星になるかもしれないし」
なるほど、確かに。
オメガに劣るアルファ、じゃ格好がつかないまま終わるが、逆なら世間のイメージを覆す事件だ。
飛鳥影昌という青年はオメガの社会的立場の改善を訴えかけ、多方面の業界から支持を得ている。やっていることは鈴真と似ているが、その活動もオメガがやるから感動と説得力がある。悲しい話、鈴真がどれだけオメガの為にスピーチをしても世間は同じ受け止め方はしないだろう。
オメガは自分の苦しみを理解してくれる人を欲している。自分と同じ苦しみを味わった人間に話を聞いてほしいのだ。
白崎鈴真は彼の存在に陰り、薄れるか。
煙草を吹かし、彼が書いた本を棚から取り出した。羅列する文章は綺麗事だし、オメガが読んだらどう思うか分からない。しかしアルファの自分からすれば、中々どうして悪くない内容だ。
いつか滅ぶ人種。どちらか一方ではなく、どちらとも、というのが妙に納得できる。
自然の世界でも言えることで、敵がいない種族は勝手に自滅するのだ。




