#4
人気のなくなったホテルの廊下で、白崎は窓の外を眺めた。遠くには東京のシンボルタワーが赤赤と煌めいている。
「つまりアルファとオメガの差別化を廃絶すべき、と……。貴方は不遇なオメガを擁護したいんですか?」
「不遇? 面白いこと仰いますね、蓮川さん。オメガは不遇な扱いを受けてると思ってたんですか。私はそこまでは言ってませんよ。だってその考えでいくと、オメガを苦しめてる元凶がいるってことじゃないですか」
窓に寄りかかるようにして、鈴真は内ポケットから煙草とライターを取り出した。
「オメガを惨めな生き物にしているのは、私達アルファ。内心ではそう思ってるんでしょう?」
「そんなことは……それにアルファが優れて、オメガが生きづらい体質をしてるのは事実です。差別するのでも支配するのでもなく、オメガが安心して暮らせる環境をつくるべきだ。アルファとして生まれた以上は」
そう言うと、彼は一瞬目を泳がせた。
どうしたのか不思議に思っていると、煙草を灰皿に置いてゆっくり拍手した。
「そうですね。その通りだ。私達は選ばれた存在なんだから」
言い回しが一々いやらしい。
いい加減彼の人間性に疑問を感じている。親しい間柄にも言わないことだ。
だが鈴真は止まらない。
「それにしても蓮川さん、やっぱり貴方は素晴らしいひとだ。私が創設した支援団体に入りませんか?」
「いやいや、僕は毎日自分のことでいっぱいいっぱいなので。……すみません」
何故自分が謝ってるのかも分からないが、唐突に目を輝かせた鈴真を宥めた。
灰皿には赤く小さな炎が灯っている。これが本当に、オメガの希望になり得ればいいのだが。
……そんなもの、もう何十年も絵空事でしかない。
アルファは立場や責任に振り回されることなく、自由に生きるべき。恋愛や結婚なんて無理にしなくていい、という鈴真の意見は意外にも多くのアルファに響き、共感をすくい上げた。出世街道まっしぐらに見えるアルファも、実際は不満や苦しみを抱えた者達が存在し、救いを求めていたのだ。
蓮川も楽しいことばかりではなかったが、アルファとしての誇りは少なからず持っていたし、身を擲つほどの不満や怒りはなかった。自分は単純に恵まれていただけなんだろうか。
鈴真の憐れみにも近い眼を見ていると心が揺れ、無性に不安になる。こんなにも畏怖の念を抱いた相手は、恐らく彼が初めてだ。
これからのことを考えると逆に嘘偽りなく、本音をぶつけながら付き合いたいと思う。例え今の仕事が続けられなくなったとしても、この普通じゃない青年の本性を暴いてみたい。
「白崎さんは良い人だと思います」
両手を握り締め、真っ直ぐに彼を見た。
「素直で、正義感の強い人。でもたくさん敵をつくって苦労しそうだ」
失礼を承知で告げると、存外彼は困ったように視線を逸らした。何故か頬が赤く染まっていて、恥ずかしそうにしている。
図星だったのかと密かに驚いていると、急に両頬を叩いて笑った。
「慣れてます。そういう風に生まれたから」




