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泡沫コンフリクト  作者: 七賀ごふん
白崎鈴真

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4/9

#4



人気のなくなったホテルの廊下で、白崎は窓の外を眺めた。遠くには東京のシンボルタワーが赤赤と煌めいている。

「つまりアルファとオメガの差別化を廃絶すべき、と……。貴方は不遇なオメガを擁護したいんですか?」

「不遇? 面白いこと仰いますね、蓮川さん。オメガは不遇な扱いを受けてると思ってたんですか。私はそこまでは言ってませんよ。だってその考えでいくと、オメガを苦しめてる元凶がいるってことじゃないですか」

窓に寄りかかるようにして、鈴真は内ポケットから煙草とライターを取り出した。

「オメガを惨めな生き物にしているのは、私達アルファ。内心ではそう思ってるんでしょう?」

「そんなことは……それにアルファが優れて、オメガが生きづらい体質をしてるのは事実です。差別するのでも支配するのでもなく、オメガが安心して暮らせる環境をつくるべきだ。アルファとして生まれた以上は」

そう言うと、彼は一瞬目を泳がせた。

どうしたのか不思議に思っていると、煙草を灰皿に置いてゆっくり拍手した。

「そうですね。その通りだ。私達は選ばれた存在なんだから」

言い回しが一々いやらしい。

いい加減彼の人間性に疑問を感じている。親しい間柄にも言わないことだ。

だが鈴真は止まらない。

「それにしても蓮川さん、やっぱり貴方は素晴らしいひとだ。私が創設した支援団体に入りませんか?」

「いやいや、僕は毎日自分のことでいっぱいいっぱいなので。……すみません」

何故自分が謝ってるのかも分からないが、唐突に目を輝かせた鈴真を宥めた。

灰皿には赤く小さな炎が灯っている。これが本当に、オメガの希望になり得ればいいのだが。


……そんなもの、もう何十年も絵空事でしかない。


アルファは立場や責任に振り回されることなく、自由に生きるべき。恋愛や結婚なんて無理にしなくていい、という鈴真の意見は意外にも多くのアルファに響き、共感をすくい上げた。出世街道まっしぐらに見えるアルファも、実際は不満や苦しみを抱えた者達が存在し、救いを求めていたのだ。

蓮川も楽しいことばかりではなかったが、アルファとしての誇りは少なからず持っていたし、身を擲つほどの不満や怒りはなかった。自分は単純に恵まれていただけなんだろうか。

鈴真の憐れみにも近い眼を見ていると心が揺れ、無性に不安になる。こんなにも畏怖の念を抱いた相手は、恐らく彼が初めてだ。

これからのことを考えると逆に嘘偽りなく、本音をぶつけながら付き合いたいと思う。例え今の仕事が続けられなくなったとしても、この普通じゃない青年の本性を暴いてみたい。

「白崎さんは良い人だと思います」

両手を握り締め、真っ直ぐに彼を見た。

「素直で、正義感の強い人。でもたくさん敵をつくって苦労しそうだ」

失礼を承知で告げると、存外彼は困ったように視線を逸らした。何故か頬が赤く染まっていて、恥ずかしそうにしている。

図星だったのかと密かに驚いていると、急に両頬を叩いて笑った。


「慣れてます。そういう風に生まれたから」




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