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泡沫コンフリクト  作者: 七賀ごふん
Conflict

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17/18

#2



声を荒らげたことで彼は相当驚いたようだ。ハンカチを持っていた手を下ろし、気まずそうに扉に背を預ける。

「あ……」

あぁ……やってしまった。

助けてくれたひとに対する態度じゃないだろ、俺。

深く息を吸い、頭を下げる。

「ごめん。せっかく心配してくれたのに」

「ううん、いいよ。ばれたくないっていうか、指摘されたくないことだもんね」

「いや、そうじゃなくて……俺、本当にオメガじゃない。アルファなんだ」

そう告げると、彼はさらに驚いた様子で鈴真を見返した。

「え、だって、ヒートしてない? こっちもちょっとぬれてるし」

後ろに手を回され、羞恥心で顔が真っ赤になる。彼はそれも察したらしく、咳払いした。

「……詳しくは分からないけど、大変だね。でも何となく共感できるかも」

共感?

こんないかにも出来たタイプが?

「君、これからもそうやって、必死に身体のことを隠していくの?」

「それはもちろん……ていうか、それしかない……」

「そうかなぁ」

少年は不思議そうに首を傾げるが、当然だろう。もしこの特異体質が明るみになれば、好奇の視線に晒される。普通の生活は送れなくなる。

でも、彼はそれをきっぱり否定した。


「オメガだっていいじゃん。案外アルファより生きやすいかもよ?」


あまりにあっさりと。他人事のような口ぶりに、怒りや呆れよりも驚いてしまった。

「オメガは大変だって、皆言ってるよ?」

「うん。大変だとは思う。実際身体の不調はかなりきつい……でもびくびく隠れながら生きるよりはマシじゃないかな? 俺はオメガとしての生活、そこまで嫌じゃないけど」

「え」

嘘だろ。彼が、オメガ?

何かの聞き間違いとしか……それか、冗談としか思えない。だけど彼は至って落ち着いた様子で、鈴真の前髪を持ち上げた。


「君とは真逆。性格も能力も体質も、オメガらしくないって言われてる。それで家族からは気味悪がられて、同じオメガからは避けられてる。そんなもんでしょ」

「そうなんだ……辛くない?」

「全然。もっと勉強して、大人になったら皆手下にしてやろうと思ってるし」

彼は誇らしげに腕を組んだ。やはり自分とはメンタルの強さが違うようだ。そういう所も何だかリーダーっぽい。

他人とは違う場所を見ている。最終的には自分の為になることを、必死に模索している。一メートル先も見えない鈴真には真似できない思考だ。

こんなひとになりたい。拳を強く握り締め、息を整えた。


「俺達けっこう似たもの同士かもね」


人生最悪の日は、決して忘れることのできない、対戦な日となった。


「一緒に頑張ろうよ。あ、そうそう……名前教えて! しんどかったら帰りも時間合わすし、変態オッサンから守るから」

「あ、はは……ありがとう」


オメガに守られる。普通は逆なんだろうけど……。

その“普通”を、いつか変えることができたらいいな。

アルファが有能でオメガは無能だなんて、そんな教科書は要らない。いずれ自分達のような存在が増えて、もっと混沌とした世界になるかもしれない。


アルファらしくない自分と、オメガらしくない少年。

この出会いが全てを変えた。この先もっと苦しいことが待ち受けてるとしても、生きていこうと思えた。


生まれてきたことを後悔する……そんな人生にはしたくない。


白崎鈴真しろさきすずま。……これからよろしく」


照れくさい気持ちで自己紹介すると、その子は今までで一番嬉しそうに頷いた。





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