#4
「困ってる人を助けるのは大切なことだと思ってるんですけど、何でしょうね。これから結婚するんです! っていう幸せに満ち溢れた人を目の前にすると……うわー! ずるい! って乱心しかけてしまう」
「白崎さん、それは……疲れてるんですよ。あと、貴方が今幸せじゃない証拠だ」
憐れみを含めてドリンクを差し出す。あらかた仕事の話も終わったので、カクテルを二人分頼んだ。
鈴真は子どものように頬杖をついていたが、蓮川のスマホを見て笑いだした。
「蓮川さん、その待ち受け何ですか? 俺の書いた本?」
「ええ、表紙です。とりあえず今日はこれで通そうかと」
「恥ずかしいんで変えてください。そんなことしなくても、俺は蓮川さんのこと好きですよ。感謝してます。……それに申し訳ないと思ってる。勝手に書いて、勝手にやめて。俺ひとりの暴走に巻き込んでしまった」
店内の客が減ってきた為か、鈴真は掛けていた眼鏡を外した。
「オメガの為になにかしたい……その気持ちは初めから変わってません。でもオメガの為にしてきたことが全て正しかったかって訊かれると、やっぱり違うんですよね。顔と名前を売る為に、利用できるものは何でも利用しました。この本すらも」
「それは別に悪いことじゃない。というか売上の話なら俺達出版社の方がずっとシビアですよ。そこは割り切っていかないと」
芸人で言うなら一発屋か。ヒット作を一本出して終わる作家の方が圧倒的に多い。売れないと判断したら契約を打ち切るし、収益についても会社が得する方へ持っていく為、いくらでも上手いことを言う。
鈴真が何に罪悪感を抱いているのか分からないが、恐らくお互い様だ。互いに利用できる、良いビジネスパートナーだっただけ。
「……ありがとうございます。蓮川さん、幸せになってくださいね」
「ちょっと気が早いですけどね。今生の別れみたいだし」
おかしくて笑うと、彼も肩を震わせて笑った。運ばれてきたカクテルはひどく甘くて、飲み干すのに時間がかかった。
「言い忘れてた。指輪、素敵ですよ」
カフェを出て、海沿いの駐車場へ向かう。鈴真は蓮川の左手の指輪を指し、楽しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。ペアリングなんですけど、早くエンゲージリングが渡せるよう頑張ります」
「お、かっこいい。そういうの聞くと、アルファで良かった、って思いません? 性別に拘らないと言っておきながら、俺、プロポーズはアルファからしてほしいんですよねぇ」
「あぁ、それも確かに……ところで白崎さん、ちょっと酔ってません? 転ばないように気をつけて」
不安に思いながら彼の腕を引く。彼はハイハイと答えて歩道に乗り上げた。交通量が少ないから良いものの、今普通に車道にはみ出てたぞ。




