#3
「無事に刊行できましたね! 白崎鈴真二冊目のエッセイ。書店では初日から飛ぶように売れてますよ。二冊目もしっかり結果を叩き出せる人ってそうはいないから、彼は本当にカリスマ性がありますね」
「あぁ、良かった。でもこれが絶筆になるかもしれないから、何だか複雑だなぁ」
鈴真の記念すべき二冊目が世に送り出された二日目の夜。喜ぶ後輩とは反対に、蓮川は会社の休憩室で項垂れた。
「絶筆? って、何でですか?」
「白崎さんはもう書く気はないらしい。これからはオメガの支援に集中したいから、メディアの露出も一切しないって。最近自宅やオフィスにこもりがちで体調も良くない感じだったし、仕方ないかもな」
「それは働き過ぎじゃないですか? 少し休んで、余裕ができたらまたやる気になるかもしれませんよ?」
「なら良いんだけど。ま、知れば知るほどアルファらしくない自由な人だから……」
本の完成までは多忙で、もうこんな仕事やめてやるとまで思っていたが、終わってみると寂しさが募るから不思議だ。嫌なことや辛かった記憶は全て美化される。だから中々やめられないんだろう。
「そういえば、蓮川さんは飛鳥影昌さんのファンでしたよね」
「何だ、急に。ファンじゃないよ」
「だってよく公式ブログ見てるじゃないですか。同じオメガ支援者の白崎さんを担当してるのに、全く酷いお方!」
「そりゃ対策というか、似たり寄ったりな内容にならないよう研究してるからで……あれ、新しい動画が上がってる」
パソコンの動画サイトからお知らせが来ていたので、クリックして確認した。後輩は後ろで「やっぱり」だなんなと言っているが、構わず飛鳥の新たなサービス紹介を視聴する。今までは短期派遣専門だったところを、長期契約の案件を増やしていくようだ。また住む家に困っているオメガの為、寮やホテルの設備も用意するという。
相変わらず順調にやっているようだ。左手の薬指には、以前会った時はつけてなかった指輪が輝いている。
オメガが社会進出し、アルファが分散する時代がそこまで来ている。鈴真も飛鳥も、やってることは違うが求めているものは同じだ。
「……お。電話だ」
「あ! 蓮川さん、彼氏からでしょ」
「うん、ごめんな」
「いいなぁ~。まぁ今日は残業だし、電話ぐらいどうぞ」
彼の気遣いに苦笑し、廊下へ出て電話に出る。仕事は変わらず忙しいが、趣味の古本屋巡りをしていたら恋人ができた。同い年のオメガで、時々距離感に悩むこともあるけど、一緒にいると心地いい。安心できる相手と巡り会えたことが実はかなり嬉しい。
来月は彼が誕生日なので、久しぶりに有休をつかって旅行しようと思っている。その楽しみもあって、何とか仕事を頑張れている感じだ。
「春が来た、って顔ですね」
編集者として大まかな打ち合わせは今回が最後になる。せっかくだからと海の目の前のカフェに呼んだのだが、彼はどうやら蓮川が浮かれてると思ったようだ。
「次に連絡を寄越す時は結婚の御報告ですか」
「ちょっとちょっと……飛躍し過ぎですよ、白崎さん。ていうか何か怒ってます……?」
視界に広がるオーシャンビューに美味しいハワイアンメニュー。てっきり喜んでくれると思ったのに、白崎は目の下にクマをつくったまま、渡した報告書類に目を通した。




