#1
「ありがとうございます。さすが、よく見てらっしゃる……尊敬します」
確か少し歳下のはずだったけど、隣に並んでみてもどっちが年長者だか分からない。
飛鳥はきょとんとしていたが、やがて首を振り、優しく微笑んだ。
「とんでもない、駄目人間ですよ。まだまだ至らないことばかりで、いつも誰かを困らせてる。でも困らせるだけなら、まだ……僕の場合は傷つけてしまうことも多くて」
「そんな。故意じゃないなら仕方ないでしょう。仕事でもプライベートでも、飛鳥さんは完璧なイメージしかありませんよ」
「だと良いんですけど……現在進行形の悩みもあるし、中々ね」
考える素振りをした後、彼は軽く会釈した。
「でも、ありがとうございます。蓮川さんも優しい方ですね」
彼は本当に嬉しそうに笑った。なるほど、確かに女性なら一発で落ちる雰囲気だ。でも。
「飛鳥さんは……確か、御付き合いされてる方がいるんですよね」
恋愛沙汰に首を突っ込むのは野暮だと思ったが、あえてアドバイスを求めてみた。
「実はしばらく独り身でして。仕事中心に生きていたから、って自分に言い訳してたんですけど、ちょっと違う生き方もしてみたくなったんです」
「と言うと、お相手を捜してるんですか?」
「そうですね……。いや、まずは話や趣味の合う人を見つけるところから始めたい感じです。ある本を読んでから“アルファらしさ”が分からなくなっちゃって。性別に囚われない場所に飛び込みたいというか」
初対面の、しかも名物社長に突然人生相談してしまうあたり、やっぱり酔っているかもしれない。けど飛鳥は顎に手を当て、真面目に考え出した。彼も大概真面目で、律儀な人だ。
「アルファだから、完璧に生きる必要なんてない。きっと貴方が読んだ本にはそう書かれてたんじゃないですか? 多分、僕もその本を愛読してますから」
「もしかして、“生き残る種”ですか」
「ええ。……あれは中々奇抜で、痛快な内容でした。アルファだからって特別なわけじゃない。中にはオメガにも似た性質、能力の者も少数だが存在する……とか?」
飛鳥の濃紺の瞳が妖しく光った。その口元は、わずかに笑みを見せている。思わず背筋にぞくっとしたものを感じ、彼より一歩あゆみを遅らせた。
「僕もね。オメガとして生まれたけど、アルファより劣ってるなんて思ったことありませんよ。でもそんなこと言ったら子どもの時は生意気だって言われて、虐められましたけどね。大人になった今は不遜だなんだって言われて、やはり変化はありません。でもオメガだからってビクビク閉じこもるのは性に合わないんです。バース診断ではオメガと言い渡されたけど、オメガの症状が出たことなんて一度もなかったから」
「え……」




