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第1話:死因は普通車、転生先は高級クリーニング対象

初投稿です!「普通」を愛する男が、一番「普通じゃない」状況に放り込まれるお話です。楽しんでいただければ幸いです。

真っ白だった。視界も、記憶も、そして今俺が着ているこの豪華すぎる服も。

「……ここ、どこだ?」

 俺の名前は山田太郎。享年二十六歳。

 市役所の窓口業務を終えた帰り道、信号無視の普通車に突っ込まれ、気がつけば石造りの巨大なテラスに立っていた。

 眼下には数千人の騎士たちが跪き、地響きのような歓声を上げている。

「フォルカード殿下! 魔王軍先遣隊を退けたその御姿、まさに我らが『王道太子』!」

(……フォルカード? 王道太子? あ、これアレだ。転生漫画でよく見るやつだ)

 俺は意外と冷静だった。前世では趣味でWeb小説や漫画を読み漁っていたからだ。

 この展開なら、俺は何か特別な力に目覚めているはず。俺は慌てて自分の「ステータス」を確認しようとしたが、脳内に響いたのは無機質なシステム音ではなく、あの神様のふざけた声だった。

『あ、太郎くん。その服「聖礼装」って言ってね。一箇所でも汚れると寿命が削れる呪いがかかってるから。洗濯も不可。絶対汚しちゃダメだよ。じゃ、頑張って!』

「…………は?」

 絶望が背筋を駆け抜ける。

 最強の剣? 魔法無双? 違う、俺に与えられたのは「一撃死のデバフ装備」という名の死刑宣告だ。

「殿下! この勝利、共に祝わせてください!」

 一人の泥だらけの騎士が、感極まった様子で俺の肩を抱こうと迫ってきた。

 その手には、魔物の緑色の体液がべっとりと付着している。

(死ぬ。あれに触られた瞬間、俺の寿命は尽きる……!)

 俺は漫画で読んだ「神速の回避」を必死にイメージし、全力でバックステップを踏んだ。

 シュバッ! と空気を切り裂く音が響く。

「……え?」

 騎士の手が空を切る。あまりの拒絶ぶりに周囲が静まり返る。まずい、露骨に避けすぎた。

 だが、騎士たちの解釈は俺の予想を遥かに超えていた。

「見ろ……勝利に浮かれる我らを、あの厳しいステップで戒めておられる!」

「流石は殿下、我らが王道の体現者。安易な接触すら許さぬあの高潔さ……震えるぞ!」

 違う、ただの生存本能だ。

 冷や汗を拭いたいが、手の甲が汚れているかもしれないと思うと顔も触れない。

 そんな俺の視界の端で、一人の平騎士が丁寧に、ひっそりと「作業」をしていた。

 茶髪の、どこにでもいそうなモブ騎士。名をジャックというらしい。

 彼は戦場に残された巨大な魔物の死骸が邪魔だったのか、深々とお辞儀をしてから、それを素手でひょいと持ち上げた。

(……待て。あの魔物の死骸、少なくとも三トンはあるよな?)

 ジャックは「失礼します、ちょっと通りにくいもので」とでも言いたげな丁寧な所作で、その巨体を紙屑のように遠くへ放り投げた。

 魔物の死骸は音速を超え、衝撃波を撒き散らしながら地平線の彼方へ消え去った。

「よし、これで足元が綺麗になりましたね」

 ジャックは満足げに頷き、自分の靴についた僅かな砂をトントンと払っている。

 周囲の騎士たちはあまりの光景に(というか、ジャックの存在感が薄すぎて)誰もその異常事態に気づいていない。

(な、なんだアイツ……。デコピンどころか、あの重量をあんな丁寧に、かつ無造作に……!?)

 俺の漫画知識が「アイツが真の主人公だろ」と叫んでいる。

 ジャックはそのまま、俺の方をチラリとも見ずに、整列する騎士たちの末端へと消えていった。

「殿下、いかがなされましたか?」

「……いや。あそこにいる騎士は、誰だ?」

「あそこに? いえ、誰もおりませんが……ああ、あの隅っこにいる新兵のジャックですか。ただの真面目なだけの男ですよ」

 ただの男なわけがあるか。

 だが、あの男の後ろにいれば、俺の白衣は一生汚れない気がする。

 高潔すぎて誰も近寄れない王子と、最強すぎて誰にも認識されない、丁寧すぎるモブ。

 二人の運命が交わるのは、もう少し先の話。

 山田太郎、二十六歳。

 異世界で「王道太子」としての、そして「絶対にあの男をクリーニング代わりにしてやる」という野望を抱いた一日の終わりだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

服が汚れたら即終了の無理ゲー人生……。

あの謎のモブ騎士ジャックをどうにかして捕まえたい太郎ですが、果たして上手くいくのか。

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