プロローグ:価値なき者の烙印
「レント、お前は今日限りでパーティーを追放だ。」
凍てつくような声だった。勇者アレスが、聖剣を軽く鳴らしながらそう言った。
その背後には、賢者ソフィアと聖騎士ライオネルが淡い月光を背にして、冷ややかな視線を僕に注いでいる。
僕、レント・アシュフィールドの職業は【呪術師】。
デバフ魔法――相手の動きを鈍らせる《スロウ》、防御力を削ぐ《アーマーブレイク》など。
でも、攻撃魔法も剣技も持たず、あくまで“敵を弱める補助役”に過ぎない。
そのため、僕は“寄生虫”呼ばわりされ、切り捨てられようとしていた。
「どうして……僕はずっと、皆のために動いてきたんだ」
僕の声が震える。
「サポート?笑わせるな」アレスが冷たく嘲った。
「お前の“できること”なんて、敵を少し弱めるだけだ。直接の攻撃力も、物理力もない。
高難易度ダンジョンで、それほどの余裕があると思うか? お前のような存在にリソースを割くわけにはいかん。」
「そんな……! 深層ボスの《混乱》や《麻痺》を打ち消せたのは、僕なんだ!」
僕は必死に訴えた。
「それは解呪魔法か? ……ふむ、だがな、これからはソフィアが開発した『万能聖水』がある。
お前のそのちっぽけな魔法なんて、もはや不要。――だから、追放だ。」
ソフィアが虹色に輝く小瓶を掲げる。あの聖水――実は僕が古文書を読み解き、素材の配合を教えたものだったのに。
僕は言葉を失った。
「これは餞別だ、受け取れ」
金貨数枚を投げつけられ、それは石畳の床で虚しくコロンと音を立てて転がった。
彼らは最後まで、僕の真実を知らなかった。
夜な夜な彼らの武具に仕掛けられた呪いを解いてきたことも、
ダンジョンの罠に隠された即死呪詛を密かに無効化したことも、
そして僕の本当の力が、世界の理をねじ曲げうる【大呪術】の片鱗であることも——。
背を向け、去る彼らを、僕はただ静かに見送ることしかできなかった。




