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掏摸

 JRの改札を抜け、路面電車に飛び乗る。どこかで見た映画のようだった。この日も電車は満員で、仕事をするにはとても宜しい環境と云えた。

ドン―、「痛ッ…」

 佐川田は広島ドームの周辺を、電車を下りてから、行く宛もなく数時間は迷い歩いていた。もう辺りは暗く周囲を見渡しても、殆ど明かりはなかった。その先にネオンサインが輝き、人の欲望を掻き立てる美しい光が、佐川田をそこに呼び寄せていた。


 流れ  流れて 流れて川屋  またここに迷い子       

 のように流れついたひとり


 佐川田は川屋町の人混みを歩き、少し草臥(くたび)れたころラーメン屋を見つけて中に入った。中華そばの赤ちょうちんに、下町情緒という昭和のノスタルジーを感じてしまったからだろう。鶏ガラスープのネギラーメン、それは豚骨主流の現代ラーメンの中では、忘れ去られていた存在だった。細麺に絡みつくネギの歯応えと、スープの軽い旨味が絶妙な味を生む。

 佐川田はスープまで全て飲み干して、食欲を満たして少し落ち着いたのか、今度はインターネットの予約サイトで、安く泊まれる宿を探し始めた。だけれども、この近くで安く泊まれるホテルにまったく空室はない。ここ最近では覚えがないが、若いころはホテルの予約が取れず、何度も駅の周辺の公園で野宿を体験した。公園のベンチで朝が来るまで、寝ていればいい。簡単なことだ。佐川田はとりあえずラーメン屋が閉まるまでは、ここで粘って居座ることにした。

 深夜の十二時が近づく頃には、人通りも流石に(まば)らになり始めていた。佐川田は暇潰しにまだモバイルフォンでインターネットを検索していたが、その中で素泊まり三千円のコンドミニアムを見つけた。今すぐ予約すれば宿泊先は確保できる。予約のアイコンを迷うことなくタッチして、すぐに予約を完了させた。佐川田は目の前の水を一気に飲み干し、ラーメン屋の店主に勘定と声をかけた。ジャケットのポケットにある(はず)の財布を探した。「あれッ―、ない」


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