左翼過激派
犬谷はテーブルに置かれた名刺を眺めながら、首を傾げて不思議そうに訊いた。
「これは一体どんな事業を行っていますか」
吉桑はトートバッグから今度はパンフレットを持ち出し、犬谷に意味あり気に手渡した。
「そのパンフレットに詳細は書いてあります。簡単に解りやすく云えば、自治体や企業から寄付を集めて、平和に寄与する活動を―、そう云ったところでご理解頂ければ有り難いです」
犬谷はまたも首を傾げて、吉桑の笑顔に対して質問を投げかけた。
「今ここで饒舌に笑い、大酒を振る舞い、酔いに任せて喧嘩越しに名乗りを上げるのも、平和活動だと仰りたい」
吉桑は堂々と悪怯れもせず、いつものセリフを語り口調で話した。
「我々は平和活動の事をイベントと呼んでいます。これもイベントにすることは出来ますが、我々に於いては、イベントとは撮影会のことであり、これをメディアを通しての、平和活動と呼んでいます」
犬谷は脅しとも取れる買言葉に、またも首を傾げてまったく納得していないようだ。
「それは最近よくニュースになっている、左翼過激派のことですか。それならご説明で何となく…」
吉桑はそれは心外だと、顔を歪めて笑っている。何処となく不穏な空気が漂う感じがする。
「ええ、確かにあのころのように、企業から十分に、いや湯水のように資金が下りてこない。私たちなりに企業にアプローチをかけてはいます。だけど、企業は平和に無頓着のようで、この数年は成果が上がらない。だから、一部の活動家が過激な行動にでているのは承知しています。しかし―、私たちとはまったく関わりありません」
北森は黙って演説を聴いていたが、慌てて話しに堪らず入ってきた。
「ちょっと待って下さい。過激派は否定されるけれども、左翼活動家としては認められている。それで構いませんか?」
「左翼かどうか解りませんが、平和活動家であることは事実です」