表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/43

平和学社法人

 今度の酔客はサラリーマン風でキャバクラからのハシゴだった。彼らは時代の大ホラ吹きとも、大衆から揶揄(やゆ)される存在であって、彼らもまたヤクザ者と比喩(ひゆ)されることもある。

 大将が満席の店内で空席に困り、吉桑に相席を頼んできた。大将は済まなさそうな表情で、軽く両手を合わせて頭を下げる。大狸(おおたぬき)の店内は賑わいを更に増して、波を打つような掛け声と笑い声が響いていた。吉桑は仕方なく(うなず)いて相席を承諾した。いつも酔い騒ぎ迷惑をかけている、大将に対しての侘びとも云えた。

 サラリーマン風の酔客は相席が不服なのか、愚痴めいた悪態をついて、吉桑の(かたわ)らで酔っ払い椅子の上で胡座(あぐら)をかいた。

「部長、相席だと飲みづらいです。僕は相席が嫌だから、ほかの店に行ってもいいですか」

この部長と呼ばれている酔客の男は犬谷(いぬたに)、連れの男は北森と云い、(まれ)でもない歓楽街に(おい)ては普通とも云える人々だ。

「北森、お前は生意気だ。キャバクラでもキャバ嬢でさえ、生意気だって怒ってたぞ。それに酒癖も悪い」

 吉桑は二人の話しを黙って聞いていたが、どこか癇に障ったのか、二人の会話に割って入った。

「ちょっと待って下さい。あなた達が夜の街を荒らし廻ってるヤクザ者ですか。ここは私が(おご)りますから、まずは少しは黙って落ち着いて下さい」

 犬谷は不意を突かれてしまったが、大きく()()り交戦的に居直ってみせた。北森も同じく居直るしかなかったが、吉桑に納得いかず喰ってかかった。

「どこの誰だか知りませんが、あなたみたいな人が、本当に奢れますか。一杯だけとか昭和のオジサンみたいに云わないで下さいよ」

 吉桑は少し押されたが、強気の口調は崩さなかった。

「お金はいくらでもありますから。何でも頼んで下さい。今日はですね、私が上司と云うことで構いません。そう云うことで飲みましょう」

 犬谷はその言葉が気に入らなかったが、成り行きで乗った振りをして、あとは勘定任せで後回しにすればいい。

「では、お言葉通りで、まずは大将生ビール二つと鯨の竜田揚げ下さい。それよりもあなたの名前を教えてもらっていない。その羽振りの良さはもしかして、女だてらに議院さんだなんて云わないで下さいよ」

 犬谷の掠れた声に、他の酔客まで反応してこちらを向いていた。

「まさか。私が議院な訳ないです」

 大狸の店内がザワッとして、また笑い声に包まれていく。

「何を云っているか解りませんけど、私はこう云う者です」

吉桑はトートバッグから名刺入れを取り出して、その手を持ち替えながら、名刺をテーブルに置いた。名刺は―、NPOC 平和学社法人 支社局 課長 と書いてあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ