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無人島砂漠化ガクチカ育成物語  作者: 緒猿乃こえ
第一章 無人島に来たけど全部砂漠化。それでもこの場でガクチカを育成する
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7.ガクチカの夜明け・終幕 その1

 二日後、種芋は適した具合に乾燥した。四つに分けられたうちの一つは鳥に食われてしまったのか、無くなっていたが、三つは無事だった。よし、これでついに埋められる。

 芋を乾燥させている間に、倒れた木の枝を使って芋を埋める予定の土を簡単にではあるが耕しておいた。


「一つのじゃがいもだってうまく行けばかなりの量に増やせるぞ……収穫した芋でポテサラを作ろう。フライドポテトだって欲しい。なんなら薄くスライスしてポテチを作るのもいいなあ」


 そんな独り言を口にしながら、丁寧に種芋に土を被せ、水をやった。この水についてだが、海水を蒸留することで手に入れた水だ。飲み水にするにはろ過してさらに綺麗な状態にしたいところだが、植物の水やりに使う分にはそこまでする必要もない。それに、飲み水に関しては一週間分は持ってきている。水以外にもたくさんの物を乗せてきたため、船はかなりグラグラしながらこの島に辿り着いたのだ。


 そういえば、種芋を埋めてから収穫までにどれくらいの時間がかかるのだろう。調べてみるか。

 スマホを取り出し、「じゃがいも 種芋から収穫まで」で検索する。



 ~じゃがいもの収穫は、種芋の植え付けから約百日と言われています~



「うっ、だよな……流石に数日で育つはずもない。これには全然驚かないぜぃ……」


 そうは言ったものの、俺の予定では一週間程度でガクチカを蓄えて帰宅することになっている。百日となると、最後まで育てるのはかなり厳しい。収穫するためには数か月後またこの島に来なくてはならないが、国や他の人が後々発見して正式に国などの所有物になってしまえば次の上陸は無い。次にこの島に上陸できるとも限らないのが非常にネックだ。


「そもそも、じゃがいもって季節的にいつ育てるんだ?」


 これも調べた。どうやら年二回育てられるようだ。品種によっても違うようだが、初心者は春の方が育てやすいとある。そして今は春。タイミング的にはバッチリだ。この島が位置するのが比較的暖かい地域であることもあって、今植えれば六月から七月には収穫できるだろう。それは全て、きちんと土から芽が出てくることが前提だが。

 収穫する頃には、世間的にはある程度の人が内定が貰えている頃で、収穫を待っていてはガクチカとして使えない。ガクチカにならなくてもいいと言えばいいのだが、ガクチカを思って取り組み始めてしまったからには、何かしらの形でガクチカにしなくては自分自身に納得することができない。

 やはり、()()をするしかないのか。


 じゃがいもはまだ荷物の中にいくつか残っている。

 俺はスマホを上着のポケットに入れ、荷物からじゃがいもを三つほど取り出した。決して埋めた芋を育てないわけではない。そこは安心してくれ、責任を持って育てられるだけ育てよう。ただ、ガクチカにするためにはこれしかない。


 俺は、種芋を埋めた辺りの土を種芋ではないじゃがいもにも被せた。そして「正に今収穫されたかのよう」に土の被った状態のじゃがいもを三つ、写真に撮る。これは決して嘘ではない、そう言い聞かせる。今行っていることは、()()()()()()()()()じゃがいもの前借でしかないんだ。

 就活に間に合わせるためにはこれしかない。ガクチカは()()()()()()。事実と完全に異なっていることでなければ、あとは話し方や書き方でどうにでもなる。話し方などについてはよく考え、必要に応じて練習も必要だろう。だが、今俺が欲しているのはあくまでもガクチカのネタだ。芽が出るまでの過程は実際に体験できるだろうし、ネットや本で調べれば、いくらでも育て方や注意点は知ることができる。真実の中に適度な量の作り話を加えるくらいのこと、大学生ならきっと誰だってやっていることだ、問題ない。




 俺はその後、ネット情報の通りにじゃがいも栽培を……した。芽が出るまでは水をやりすぎず、芽が出てからは「芽かき」を行い、大きめの芽だけを残して、それを育てる。雨が強く降る日はあっただろうし、雨が全く降らない日だってあっただろう。だが俺は、数か月後、確かにじゃがいもを収穫した。土を被ったじゃがいもを手に取ったときの胸の高鳴りは今も忘れない。



 この経験に基づき、「君は学生時代に無人島に滞在したと言ったけれどもそこで何をしたのか?何を学んだのか?」に対する、焼畑農業に関する答えを書き留めておく。多少の脚色は許される。時系列の前後だって俺以外知った話ではない。堂々としていれば案外過ぎ去っていくものだ。今回の文章では、無人島には大学一年生のときに行ったものとする。



 無人島では、じゃがいもの焼畑農業に力を入れました。無人島で自然発火が起き、私は無人島でやろうと考えた多くの計画が水の泡となりました。しかし、このことを逆手にとって以前から興味のあった焼畑農業で、じゃがいも栽培をすることにしました。土を耕し、適度に水やりを行い、無事に芋を収穫することができました。この体験があってから、毎年じゃがいも以外にも異なる野菜の栽培をしています。今年はきゅうりを育てています。無人島でじゃがいもを育てるには、いかに自然から作物を守るかが課題でした。そのため水やりの計画表作成や作物周辺の温度調節を徹底し、順調に育てるためにはどうしたら良いか、成功した点、失敗した点を簡単にメモしながら育てました。このメモを生かして、昨年、今年と続けてじゃがいもを育てていますが、上手く育たないこともありました。しかし、無人島で土の中から掘り出したじゃがいもを手にしたときの感動が忘れられず、続けています。最近はじゃがいもを育てるだけでなく調理にも興味が湧いてきたので、じゃがいもを使ったレシピを調べては作るようになりました。無人島で火災が起きたときに島での経験を諦めるのではなく、他にできることはないか探し、やってみたことで今があります。このことから臨機応変に対応することで思いがけない力を得られることを学びました。






 やや話を盛りすぎた気もするが、盛った分を後で埋め合わせれば、農業系の企業は受かったと言ってもいいだろう。

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