表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無人島砂漠化ガクチカ育成物語  作者: 緒猿乃こえ
第一章 無人島に来たけど全部砂漠化。それでもこの場でガクチカを育成する
6/42

5.ガクチカの夜明け・焼畑農業

 朝だ、目を覚ましたら朝だった。昨晩の記憶が無い。だが、いつの間にか寝袋の中に入っていてぐっすり眠れていた。昨日のうちにテント内に入れておいた荷物の山の中から、朝食になりそうな物を探す。これだ、菓子パン。賞味期限は短いが二日目の朝には丁度いいと思い、ドラッグストアで買っていたことを思い出した。チョコレートの入った菓子パンを齧りながら、愛犬パンプキンの餌も準備する。まあドックフードをあげるだけなんだが。


「おはようございます、宮重ミドリさん。今日も良い日になるといいですね」


「そうだね、TUCHIDA」


 「TUCHIDA」のおかげで、テント内はとても快適だった。サル型ロボットの柔らかな尻尾に触れると、一際温かい。「TUCHIDA」は尻尾に空調設備が搭載されているからだ。


 さて、今日の気温はどうだろう。「TUCHIDA」に訊く前に自分の肌で確かめる。春の暖かな陽気を期待している自分がいる。寒いのはもう勘弁してくれ。


 テントの入口を開け、顔だけ出して外を覗いた。テントの入口は海側に面している。


 うん、暖かい。暖かいというより暑いくらいだが。

 浜辺に乗り上げて泊めたボートのすぐそばには海が広がっており、水面は陽光を反射してキラキラと光っている。

 顔だけでなく、全身をテントから出し、靴を履いて、今日から探索する林の方を振り返った。






「え?」






 ただ一言発して俺は黙ってしまった。状況がつかめていない。俺が黙り、パンプキンも「TUCHIDA」も何も言わないので、波の音だけがはっきりと聞こえる。木々が風に揺れる音もしない。それもそのはず。




「林が…………ない?」




 俺が振り返った先には一面に焼けた木々が広がっているだけなのだから。

 昨日までこの島の大きさを把握できていなかったが、どうやら想像以上に大きい。見渡す限りこの状態が続いている。

 なんということだ、昨日から探索しようと思っていた林は跡形もなく消えてしまい、ガクチカ形成のネタが一つ消滅してしまった。無人島の森林探索から学んだこと。この項目は消さざるを得ない。


 近づいて木々の様子を見ると、やはり焦げている。明らかに火災があった。出火原因は……まさか。



 昨日、俺、火を完全に消して寝たか?


 …………記憶に無い。つまり俺は消していない。もしや俺のせいなのか?


 寒気がした。

 気温はこんなにも暖かいのに、冷や汗が流れる。出火元が確定はしていないとはいえ、考えられるのは、自然発火か俺の焚き火。頼む、自然発火であってくれ。



 そうだ。きっと映像が残っているはずだ。ボートの先端に取り付けたカメラが正常に機能しているのであれば、火災の原因が分かるはずだ。


「確認してみるしかねえ……」


 ボートに近づき、先端に取りつけたカメラを取り外し、確認する。良かった、壊れていない。映像を見るために、マイクロSDカードを本体から取り出し、それを「TUCHIDA」に繋いでみた。「TUCHIDA」には、目から出す光によってスクリーンなどに映像や画像を投影する機能も備わっている。

 テント内に戻った俺は、「TUCHIDA」がテントの側面に映し出した映像を見ることにした。


 時間は午後十一時半を過ぎた頃だった。焚き火の炎はすっかり消えている。映像の奥に映る林もまだ無事だ。そのまま見ていると、突然鳥の顔が大きく映し出された。約三分、鳥はカメラを遮り、その後鳥がいなくなったときには林が燃えていた。


 都合の悪い部分は鳥で隠しましたと言わんばかりに、肝心なところが映っていなかったが、一つ分かったこととして挙げられるのは、この状況が自分のせいではないということだ。安心した。

 確実に火が消えていることは映像からも分かったので、心置きなくガクチカ育成を続行できる。


 とはいえ、林が消えてしまい、残っているのは焼けた大地。この状況で、どうガクチカを身に着けていくかが問題だ。うーむ……困った。他者とのコミュニケーションを通して、新たな意見、考えが生み出されることは多々ある。そんなことを、大学生活の中でも少なからず実感してきたのを思い出した。

 ここに他に人間は居ないが、俺には万能AIが味方に付いている。そうだ「TUCHIDA」に聞こう。


「ねえTUCHIDA、植物が焼けた大地しかない島で、ガクチカを得ようとしたらさ、まずは何したら良いと思う?」


「そうですね、焼畑農業なんていかがでしょう。植物が焼けているのでしたら、焼く手間は省けているのですし、育てる植物の種などがあればすぐにでも始められるでしょう」


「はー、なるほどね。ありがとうTUCHIDA。でも、かなり焼けてる面積広いし、そんな植物の種なんか持っていないんですけど、どうしたらいいんですか?」


 考える間もなく答えてくれるのは、このAIの凄いところだ。これを元々人間が作ったというのは、未だに信じられない。


「焼けている土地の全てを無理に使わなくても良いと思います。ガクチカを就活で答える際、多くの学生は話を盛るといいます。ですので、就活で話すためのガクチカを得る程度でしたら、一畳程度の面積でも十分でしょう。また、植物の種などをお持ちでないと言いましたが、例えば、じゃがいもはどうでしょう。じゃがいもは種芋から育てることが可能です。また、ヤマイモなどのイモ類は焼畑農業に適しています。確か、宮重ミドリさんのお荷物にはじゃがいもが入っていたかと思います。そちらを一部、種芋として土に植えてみては?」


「おー凄い、じゃあ焼畑いけるね~」


 丁度いい答えをくれる「TUCHIDA」には感心するばかりだ。万が一、こいつが間違ったことを言っても信じてしまいそうだ。だから完全に信用するのは良くないと思い、一応、この意見について自分の中でも再度考えてみた。その上で、「まあ、じゃがいも一つくらい実験に使ってもいいか」という結論に至った。




 焼けた大地に、じゃがいも。パーツは揃っている。

 そうだ、焼畑農業をやろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ