2.キャンプ飯はガクチカ・肉と米
夕食に使う食材は今朝わざわざ精肉店まで行って購入した、ちょっといいお肉、だ。
これを直火でステーキにする。タレは市販の焼き肉のタレだが、これが普通に最高にうまいということを俺は知っている。
だが、まずは火を起こそう。テントの傍に置いて座っていたキャンプ椅子から腰を上げる。
無人島に来たとはいえ、満足に燃やせる木があるとも限らない。それに湿気っていて使い物にならないことだって往々にしてある。松ぼっくりは天然着火剤になる。まずは小さい木から火をつける。
これら、キャンプの基本情報的なものは全て漫画やアニメで学んだことだ。
しかし、本格的なキャンプはしたことがないが、友達と行ったグランピングとやらで火おこしを経験したことがある。この経験は、何かで聞いたり見たりする話の説得力をより上げたり、もっとやり方を変えた方がいい点などを知ったりすることができたため、大変有効だった。
意外と着火しないことを見越して新聞紙を持ってきていた。これは経験上、かなり燃える。
木に直接着火しようと試みたが、予想通り、なかなか成功しない。そこで、新聞紙を利用して試してみたところ、しっかり燃えた。
温かみのある炎がゆらゆらと揺れる。予め設置しておいた網の上に胡椒だけ振った分厚い牛肉を乗せれば、じゅわりと肉汁を出しながら、バチバチ燃える。この肉汁が勿体ないと思い、一瞬肉を火から遠ざけたが、直火で焼いて油が滴るのもなんだか、ロマンがあって良いと思い直し、改めて網の上に乗せる。再びじゅわじゅわという音が聞こえ、同時に火力も上がった。
さて、いきなり肉を焼いてしまったわけだが、他にも食材はある。まだ出番が来ていないだけだ。
ただ、一般大学生(男)の一人飯にそこまでの工夫は要らない。味付けがしっかりしていれば美味さは保障されたようなものだ。
技術革新が起きて、持ち運び便利な炊飯器がお手ごろな価格で買えるようになった。これは革命だった。外で炊き立てご飯が食える。熱々の肉にはやはり白飯だ、と友人のS氏も言っていた。間違いない。
「今からご飯を炊いていては肉が焦げるか冷めるかの二択ですよ」というご指摘、ありがとうございます。はい、なんとですね、テント設営前にスイッチを入れているんですよね。つまり、今、もう炊きあがっているということなんですよ。
炊飯器の蓋を開けると白い湯気が立ち昇り、艶やかな米粒たちが俺に挨拶をしてくる。
これを最高以外の何と表せばいいんだ?
最高という言葉でしか表せないのは、いまこの瞬間が最高だからです、はい。
ご飯をプラスチック製の皿に乗せ、その上に直火で焼いた肉を豪快に乗せる。はっひゃ~、これは一口では行けない。食材カット用のハサミを使って、肉を食べやすい大きさより少し大きめに切って改めて米の上へ。
まずは何もつけず、肉と米だけで。
「美味いィ~⤴」
思わず声に出るほど美味い。やや大きめに切ったおかげで一口の満足感が失われないまま、丁度よく食べやすい。それに肉のスパイシーさと米の甘みがマッチしてこれだけでも調和していると感じる。だが、今度は甘辛い焼き肉のタレをたっぷりとかけ、その調和を濃い味でグレードアップさせる。
肉から滴る油とタレが美しく照り輝いて、俺を虜にした。
いざ。
「ふぉおお!?んっまぁあああい!」
「ワンッ」
あまりにも大きな声で叫んでしまい、パンプキンが吠えた。すまん、パンプキン。お前にはあげられないけど、この肉美味すぎるわ。
俺、無人島でこんないい思いしてるだけなのに、これが人と被らないガクチカになるんだろ?そう仕立て上げるんだろ?
あれ?ガクチカって何だ?大学時代の幸せのひと時=ガクチカなのか?そんな気もしてきた。
ところで、どれだけ叫んでも応えてくれるのは犬だけだというのはやはり寂しいところではある。しかし、誰にも迷惑がかからず叫べる場所なんてそうそうないため、心置きなく叫ばせてもらおう。
「ああああ美味い!」
「天才的な美味さ!」
「神も仏も大絶賛するこの美味さ正に神!」
「俺もう肉でいい……肉でいいんだよ俺ェッ!」
自分でも何を言っているか分からない言葉をその後も叫び続けながら食べているといつの間にか肉も米も完食してしまった。日が沈み切った暗い夜空に自分の遠吠えだけが鳴り響く。
米は一合だったが、肉のせいでどんどん減っていった。肉と米しか食べていないのに満足している自分がいる。
でも、まだだ。
まだ、ここで終わるわけには行かねえ!
「さてさて~、お次はお次はー?」
食料の入ったボックスの中から野菜が顔を出している。確かに、栄養バランスを考えるのなら野菜を摂りたいところ。普段なら野菜を選ぶだろう。でも、今の燃えて高ぶった俺のハートはまだ腹に来るものを求めている!
野菜の陰からあいつが顔を覗かせた。お、お前は……