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風となって

作者: タマネギ

丘の上の通りに、

洋風の居酒屋があった。

春先の薄暗い時間。

仕事からの帰りだったか。


何故、そこだったのか。

細やかなことは

覚えていない。

雨が降っていたような。


遅れて行ったのか、

先についていたのか、

同僚と行ったのか、

それも思い出せない。


話好きな上司と、

気の合う同僚と

他の課でよく話す女性と、

後に家族になった女性と。


ただ、その時の湿った

ざわつきだけが、

しっとりと記憶にある。

料理も見えてこない。


自分は帰りの一杯が

好きだったわけではなく、

人と話すのが好きだった

わけでもなかった。


それなのに、何度か、

その顔ぶれで酒場に集い、

上司のぼけ突っ込みと、

カラオケを聞いていた。


洋風居酒屋でも、

上司は同僚や女性らを

笑わせていた。

そして十八番を歌った。


センチメンタル

カーニバルが流れて、

ブルーシャトーが流れて、

街の灯りが灯った。


これもはっきりと

思い出せていないが、

ほとんど間違いはない。

とにかく歌謡曲だった。


洋風居酒屋のことを

書こうとしたのは、

その上司が女性たちに

こう言ったからだ。


ブルーライトヨコハマ

歌ってくれへん。

今ならこれを何ハラと

呼ぶのだろうか。


女性たちはえーっと言って

歌ってはいなかった。

上司はえーってかい、

ちぇっ、とギャグった。


上司は、ちぇっ、と

言った後で、女性たちに、

チェッ、チェリッシュは

あかんかと食い下がった


いしだあゆみさんが

亡くなられて、

また一つの時代が

風となってゆくのだ。


洋風居酒屋のあの日、

酔いながら十八番を

歌っていた上司も、

少し前に風となった。


丘の上から見下ろすと

この町でも港が見える。

薄暗い時間にでもなれば

オレンジの夜景が美しい。

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