龍斗―誤解
さて、なぜ俺が昔のアルバムをひっかき回しているかというと
遊園地での写真をいれておきたかったからだ。
いろいろ見返してみると遊園地の写真は意外とたくさんあった。ジェットコースターでの写真は由香と写ってるのが多いが、どれも手をつないでいる。
今思えば小学生の時らへんに
「落ちるときは手をつなごうね!」
と約束したんだったけか。
何意識してたんだか。
…小学生、か。
俺がちょっとだけ荒れたことがある時期だ。
………あ、回想入るぞ。前回の続きな。
正義。
これを確かめるために悪になったのはナタクのパイロットであり、俺ではない。
だが、例の手紙の一件以来、
「悪をぶっとばすのが正義だぜ!」
と解釈するようになった。
悪い奴は許さない。
それが人々のあるべき姿だと。
「それじゃ、強い人が正義だね」
俺が自分の正義観を話すと、由香はこう言った。
「…弱い人は正義じゃないんだね」
「別にそーゆーわけじゃ…」
「だってそうでしょ?強い人が『お前は悪だ!』って誰かを決めつけて倒したりしたらそれが正義なんでしょ?」
俺は何も言えなかった。が、俺には確固たる自信があった。
それから幾日かたった頃。
俺は新作の模型を買いに、ホビーショップへと向かっていた。
すると商店街で由香を見つけた。
声をかけようと思ったら、なんか別のおっさんが由香に話しかけた。
そのおっさんは、おっさんと呼ぶほど、おっさん的ではなかった。つまり紳士的に見えた。が、その頃の俺の語彙ではおっさんと表現するしかなかった。
紳士的なおっさんは、由香に名刺のようなものを渡して、笑顔で話していた。
しばらくすると、
「結構です!」
という由香の声が聞こえてきた。
それでも尚、おっさんは諦めない。
よくわからんが、俺はこのおっさんを戦争幇助の対象…じゃなくて悪と断定した。
とりあえず近寄る。
すると由香が気づいて手を振ってきた。
そしておっさんも俺に気づいたようだ。
「どうしたんだ?」
由香に話しかけると、何故かおっさんが答えた。
「私はこういう者ですが、この子を小学生向けの雑誌の読者モデルにスカウトしようとしているのです」
と名刺を渡された。
見ると、「葉影社 『月刊イチゴバター』編集部 富野庸平」と書いてあった。
…イチゴバターってあれか。よく給食に出てくるパキッと割ってパンに塗るあれか。一応ジャム&バターってことになってるがどんなに頑張っても強制的に混ざってジャムバターになるあれなのか。
ってかこのおっさん小学生相手にやけに丁寧に話すな。
「…それで?」
「私はヤダって言ってるのにしつこくて…」
「おっと、君もかっこいいね。一緒にどうですか?」
そんなおっさんの戯れ言は無視して、由香は嫌がってるんだな。よし、殴ろう。
と腕を振り上げたら、由香につかまれた。
そして由香は、
「あの本当に結構ですので、失礼します」
と俺を引っ張っていった。
「なんで、そうなるの?」
しばらくすると由香は俺を離し、言った。
「なんでそうやってすぐに暴力に頼るの?」
「だって嫌がってたじゃん」
「だからって?なぐっていいの?あの人は自分の仕事をしてただけなんだよ?」
俺は…冷静になった。
そして、自分の軽率さを知った。
相手は大の大人だ。
もし殴っていたらただではすまなかっただろう(戦力的には負けないだろうが)。
「俺は…」
勘違いをしていたようだ。武力制裁を加え、悪を駆逐することが正義だと思っていた。
武力と言えば格好は付くがそれは暴力だ。
そして何よりも―
「龍斗にはそれだけなの?人を傷つけるだけなの?」
「…力だけが俺の全てじゃない」
「そうだと、思うよ」
由香は微笑んだ。
俺が『制裁』などの言葉を嫌いになったのはこの頃からだったと思う。