暇を持て余した―5
俺の目の前にはジュースを持った由香が立ちふさがっていた。
本人はそんなつもりはないだろうが。
「やっと見つけた!」
由香が微笑んだ。
おお…なんか急にかわいく見えてきたぜ。
「他の奴らは?」
「いないね」
「そーか。…どうしたものか」
「2人でまわろうよ!」
恐れていたことが…
「…いや?」
そんなわけあるかあー!
ってことで一緒にまわることになりました(泣)
由香は楽しそうだ。
…この笑顔の裏にも恋心を秘めているのだろうか。
なんだかいたたまれなくなってきてしまった。
龍斗と由香以外全員が集まったコーヒーカップ周辺。
香澄が状況を説明していた。
「これは奇跡よ。よく考えてみて」
「運よくみんなはぐれて、運よく龍斗と由香が2人きりになったってことだろ?」
香澄も趣味が悪い。
「それのどこがいいんだ?」
「あれが!あーなるチャンスがあるってことよ!」
「は?」
…拓は龍斗以上のニブチンのようだ。
このカスは置いといて達也と作戦会議。
「もう作戦とかいらないだろ。なるようになるって」
「そうかしらね。2人とも驚くほど奥手なのが心配ね…」
「まあ、見守るってことで」
見守られてることなどつゆ知らず、龍斗たちはジェットコースターに乗っていた。
あの有名な121°の急降下がある『タカビーじゃ』という奴だ。
実は俺はこれには乗りたくなかった。
だが由香がどうしても乗りたいと言うのだ。
俺は先程香澄に吹き込まれたことを意識しすぎてうまく由香としゃべることができず、OKしてしまった。
なんだよ、2人で遊びに行ったことなんてたくさんあるじゃないか。遊園地だってなんどか行ったはずだ。なにをこんなに意識してるんだ。
シートベルトが固定されたとき俺はもう逃げられないことを悟った。
「はい、それでは行ってらっしゃーい!ビージャ、ビージャ、タカビーじゃ!」
あのスタッフのテンションうぜえ。
なんて思ってたら発進した。
序盤はよく覚えていない。曲がったりくねったりしたとしか。
そしていよいよ終盤の例の121°のところまできた。
機体が垂直に登っていく。
怖っ。
そして頂上に着いて若干前に傾いて一時停止。
…趣味悪いな。
段々恐怖も募ってきたそのとき。
俺の右手に何が触れた。そしてそれは俺の手を握った。
俺もほぼ反射で思わず握り返した。
そして『これって由香の手か?』というところに思考がたどり着いた時にはもう降下が始まっていた。後はなにも考えられなかった。
機体から降りて、出口へ行く。途中で売店に立ち寄った。
そこでは、あの121°の直前の停止している所の写真が売っていた。
サンプルを見ると…バッチリ手をつないでいた。誰と誰がかは察しなさい。
俺は由香が他のものに夢中になってる隙にその写真を買った。
『入口の近くのお土産屋で待ち合わせな』
こんなメールが達也から届いたのはそれからしばらく2人で遊んだ後だった。
「そろそろ…帰る時間だな」
「ふふっ。楽しかった!」
それから俺達はみんなと合流して、お土産を物色してから帰った。
由香…か。
シリーズものなんてやるんじゃなかった(泣)