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神権の簒奪  作者: 命其
第一章 復讐
7/21

7

 歩道をとぼとぼと歩いていると、虫の鳴く音が綺麗に鳴った。こんなにのんびりしたのも久しぶりだった。夜の虚しさが彼の復讐心を落ち着かせた。

(本当にやるのか自分)

(やるしかない。ここまできたなら、轢き返せない)

(引き返すことはできるだろう)

(引き返したら無意味なんだ。折角のチャンスをここで逃したら、ずっと苦しめられるばかりだぞ)

 自ずとの会話に悩まされる。天を仰ぐと酷く明かりを食われた月が見えて、幾分それを見つめていると、バスが脇を通り過ぎて追い越してきた。バスは十メートル先にあるバス停に停まった。流石にこの時間に乗る者はいないだろうが、バスは誰かが乗るのを期待してじっと待っていた。それは彼を呼び込んでいるようだった。

 右ポケットに財布は入っていた。丁度五百円玉があったので、それを扉脇の小銭挿入口に入れ、バスに乗った。

 あ、と思わず声が漏れた。バスには彼を覗いて二人が乗っていて、内一人は知人、市川清花だった。彼女は最後部に堂々と股を開けて腕を組んで座っていて、項垂れて眠っていた。

「青年、隣に来てくれないか」

 乗客のもう一人は、白い髭を胸元まで生やし、同じく白いバケツハットを深く被った老爺。彼は左最善の席に座っていた。

「どこまで乗っていくんだ」

「実は町の名前を憶えてなくて。どこまでかは」

「何がある町だ。この辺り五十個くらいの町の名前なら憶えてる」

「えっと、達磨のような狸が飾られてる酒屋、知ってますか」

「ああ、ころ酒か。なら磨葉町じゃ。ころ酒に向かっとるんか」

「まあそうです」

「なら次のバス停で降りればいい。んでこのバスを追いかけてりゃ、途中でころ酒に着くさ」

「そうですか。ありがとうございます」

 言って彼は老爺の隣に腰を下ろした。

「若いのに、あの酒屋を知っとるとはなかなかじゃないか」

 老爺は三度頷いて、そして溜息を吐くと、ぼそっと言った。

「お前さん、人を殺りに行くんだろ」

 彼は思わず胸元の窪みを掴んだ。

「そこに拳銃を隠してることくらい分かる。その形は明らかに拳銃じゃ。当ててやろう、ピースメーカーだ。いや、いい。出さなくていい。どうせ当たってる。いいか青年、拳銃を隠すならもっとぶかぶかなものを着ないと。夜中だからよかった。昼なら直ぐばれてた」

 ここで老爺を殺さなければならないかと焦っていたが、徐々に落ち着きを取り戻す。この老爺は拳銃に詳し過ぎる。ガンマニアではないかと考えたがそれは違う。彼らならば、まずおもちゃだと疑うものではないか。

 視線を下ろして、老爺の右手が目に入り、そして息を呑んだ。老爺の小指薬指が無かった。

「まさか」

「おっと、口に出しちゃならん。まあそうさ。青年の考えている通りだ」

「えっと、はは。なら俺はこれから、どうなるんですかね」

「どうもならん。強いて言うなら、警察に捕まってしまうかもな。告げ口するのは俺じゃない。後ろの奴か、または青年が殺そうとしているその人。まあしくじったらの話だ。付いて行ってやろうか。今日は暇なもんでな」

 丁度にバスは扉を閉めて発車した。慣性に揺られる。彼は頷いた。

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