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電車にはもう乗れないから、自転車に乗って坂口の家に向かった。
拳銃はスーツの懐に入れていて、傍からは見えない。それどころかスーツ姿であるため、傍から見れば帰宅の最中に見えた。
坂口の家の付近には赤色の印象的な酒屋があった。その酒屋の前には達磨姿の狸がいて、根岸はとりあえずそこまで向かっていた。
一軒家の並ぶ住宅街に来た。各団欒の声も聞こえなくなり、更に建物の照明が次々に消えていった。住宅街の中心にある時計台は十時二分を示していた。
するとその時、段差につっかかって前輪が思わぬ方向を向いた。手に力を入れて方向を正そうとした時にはもう遅く、大きな音を立てて倒れた。視線を倒れる方向に向けると坂、坂の下には堤防、そして堤防の下には川があった。堤防の高低差はざっと二メートル。このまま落ちてしまえば大きな怪我を負うこと請け合い。彼は身体を捩って坂に身体を付けて、自転車と共に坂を滑っていくのに、四肢で歯止めをかけた。自転車が股から抜けて、堤防を落ちていった。川の飛沫が上がるとともにけたたましい金属音が鳴った。
右膝がひりひりと痛んだ。起き上がって川を見下ろすと、自転車は半ば川面に浸かってしまっていた。
辺りを見渡して、堤防を下りる階段がないか探した。暫く堤防に沿うように下流へと降りていくと、階段があった。そこから自転車のあった所まで戻っていく。その時には自転車は三分の二が浸かってしまっていた。それも彼がいる所から二メートル離れている。川は膝の下まで浸かってしまうようで、夜中にこの川に入るのはなんとも恐ろしい。
果ては自転車を諦めて、徒歩で向かうことにした。