4
それから数日経った。拳銃は棚にしまわれたまま、一度も取り出されることはなかった。
その日は日曜日であったが、根岸は仕事場にいた。十二時を過ぎていたから、彼は昼食をとることにした。鞄を漁って、弁当を忘れてしまっていたことに気づいた時、隣に座っていた同僚がそれに気づいて、会社内にあるコンビニで買ったであろうサンドイッチとおにぎりをひとつずつ、彼に渡した。彼はありがたくそれを受け取り、背もたれに背を預けて、半ば天井を見上げるようにして溜息を吐いた。
「眠い」
すると同僚は鼻で笑った。どうして笑うと問うと、同僚は彼の机を顎で指した。彼の机の上には、十数の缶コーヒーが置かれていた。中にはエナジードリンクも含まれているが、それは試しに飲んだだからであって、やはり彼の舌にはコーヒーが合っていた。詰まる所、彼は眠くて仕方がないというのは明白であり、口に出すまでもないのである。
「今月に入ってから、残業しっぱなしだろお前。大丈夫なのか?」
「ああ大丈夫。まだ働けるさ」
「いやそうじゃなくて、上限」
「上限。上限て、何の」
「残業のだよ。今残業何時間目だ」
「確か八十時間は超えている」
「馬鹿。まだ半月しか経ってないのに、その時間はおかしいって。ていうかお前、今日も本当は休暇だったろ。何故来た」
「そりゃ、仕事するため」
「いよいよ社畜に成り下がったか」
「社畜なんかじゃない。ただ気を紛らわせるのに、仕事をしているのがいいと思ったから、仕事をしているだけだ」
「趣味があるだろう。ゲームは。最近流行ってるのがあっただろ、名前は忘れたけど」
「ゲームはしないんだ」
「なら読書は。官能小説でもいいだろ」
「やらしいな。趣味はないんだ」
「無キャか!」
根岸は振り向くと眉根を寄せて、後一言口にしたら殴ってやるとばかりに睨んだ。
「わかったわかった、ごめんって。おいおい、軽くでも殴ろうとすんな」
根岸が肩を軽く押すと、わざとらしく同僚は呻き声を上げた。二人でくすくす笑い、そして同僚は真顔に戻ると、空になった根岸の缶コーヒーを一つ手に取った。
「でも、身体には気を付けろよ。仕事が生きがいになってるのはいいけれど、働き過ぎはやっぱり体には毒だからな。何にせよ休憩は大事さ」
妻に連絡をかけてくる、と言って立ち去る同僚を見届けた後、彼はおにぎりを一口食べた。梅干しのすっぱさが、彼に活力を与えた。コーヒーを飲み干して身体を起こすと、仕事に戻った。