3
水が流れる音がして、清花は目を覚ました。彼女はベッドの側に横たわっていた。身体を起こして窓を見ると、まだ薄暗い。腕時計を見ればまだ六時。安堵しながら居間に行くと、根岸は朝食を食べていた。彼の向かい側には、ラップに包まれた彼女の分が。清花は顔を引き攣らせながら、向かい側の椅子に座った。
「私が寝坊すると思ってたんだ」
「えと、まあ」
何故か根岸は酷く怯えていた。部屋の中は然程暑くないはずなのに、彼の顔には汗がいくつも浮かび上がっていた。訝しみながらも、彼女はラップを取って、朝食を食べた。
カチカチとアナログ時計が鳴る。
「そういえば、昨日私あらかしてなかった?」
「いや、特にそんなことは……。どうしてそんなことを」
「昨日私酔ってたでしょう。ほとんど記憶がないのよ。でもおかしいなあ、そんなに飲んでなかったはずなのに」
「そう。それはよかった」
「よかった?」
「ああいや、何も」
清花はじっと目を逸らせて俯く根岸を見つめた。そして何か察すると、彼女は息を呑んだ。机に手を付いて、勢いよく立ち上がる。
「ま、まさか」
「まさか……?」
根岸の切羽詰まった表情に、清花は顔を真っ赤にした。食べかけのご飯を残して、彼女は身を翻した。荷物を全て持つと、家を出る。
「え、その服は――」
「ごめん、急がないとだから」
必死に作った笑みは、扉が閉まるとともに消えた。顔に手を当てると、その熱さが伝わる。
「ああ、なんてことを」
首を振りながらとぼとぼ歩きだす。そして駅に着いて、今更ながらに酒臭くなかったか考えた。
一方根岸は、清花が去って心底安堵していた。
実は彼女に昨夜の記憶が一切なかったのは、致死量など気にせずに彼が飲ませたからだった。彼女を気絶させた後、彼は家にある酒を全てを強引に飲ませた。それが上手くいったのである。
彼はスーツに着替えた。時計はどこに置いたかと探していると、棚の中に隠していた拳銃が目に入った。彼は鼻で笑って棚を閉じた。