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6話 3D1Y

 露出において最も重要な部分とは何だろうか。

 人による、などという尤もらしい正論でもあり、何の生産性もない逃げでもある答えは捨て置いて考えてみよう。


 背徳感?高揚感?緊張感?開放感?

 色々挙げられるが、どれもピンとこない。

 然るに俺にとって、露出とは興奮のためにするものではないのだろう。


 初めはそうだったかもしれない。

 だが今の俺にとって、露出とは芸術であり存在証明だ。自己実現の一手段なのだ。


 そこに快感がないとは言わないが、根底にあるのは抑えきれない衝動の発露だ。

 即ち芸術性の爆発。

 数多の創作者が己が意欲を作品へと昇華するように、俺は裸を曝け出していた。


「だからそこには確かな矜持とこだわりがある。他者に評価されない分、自分の納得こそが何よりも大事なんだ」

「はあ」


 などと長ったらしい持論を語っているのには訳があった。


 月曜日、弁当を食べ終えトイレに行った帰り道、俺は白銀に拐われてしまったのだ。

 女と男、ましてや鍛えている俺ならば即座に振り払えただろうが、流石に女子に対して乱暴な手段に出ようとするのは気が引けた。


 そうしてあれよあれよという間に屋上へ続く階段の踊り場へと連れてこられると、こう聞かれたのだ。

 『あなたにとって露出ってなに?』と。


「他人に見せる露出も勿論ある。別に非合法に限らずともヌーディストビーチがある国は珍しくないし、裸で行うサイクリングの大会もある。だけど、俺にとってはそうじゃないんだ」

「というと」

「世界に向かって己の存在を表現する。俺はここにいるのだと証明してみせる。……その時だけが、俺が俺でいられる時だと思うんだ」


 それは俺がこの十六年間で培い、結論づけた人生観そのものといえた。

 正直、自分でも何言ってんだこいつって思う。

 けれどこれが俺の心の底からの本音だった。


 多分白銀にも理解はできない。

 それなのに馬鹿正直に語ってしまったのは、きっと彼女が同じ露出狂だからなのだろう。


「……よくわかんない」

「だろうな」


 俺も他の人から違う分野で同じようなことを言われたら頭おかしいんじゃないかと思う。


「あたしね、あなたが顔真っ赤にしてるところが見たいの」

「そうなの」

「だからあなたが持つ露出への拘りを理解しようと思ったんだけど、難しくてさっぱりだわ」


 ま、なるわな。


「無理して理解しなくていい。人生観が人それぞれなように、露出観もまた人それぞれなんだ。君は君の露出道を歩めばいい」

「いやそんなの歩んでる気はないけど」

「え、ならどうして露出なんかしてるんだ……?」

「あなたに変な人を見るような目で見られるのホント心外なんだけど」


 彼女が裸を見せるのは俺限定かと思っていたが、まさか一般人にも見せていたのだろうか。

 だとしたら褒められた行為ではなかった。


「……別に。ちょっとしたストレスが積み重なって、自暴自棄になってやってみたら意外とスッキリして、何となく続けてるってだけ」

「惰性の露出か。そんなに美しい体をしているのに勿体ないな」

「うつっ……!?」


 もっと魅せ方を意識すれば高次元のステージへと至れるだろう。

 無論日本で他人に見せる目的の露出は御法度だが、単に意識しているかどうかの差だけでも作品には響いてくるものだ。


「……そんなにいうなら教えてよ。本当の露出のやり方ってやつ」

「えっ」

「あなたはベテラン露出狂で、裸のプロなんでしょ。だったらいいじゃん、後輩を助けると思ってさ」

「いや、それは……いいのか?」

「いいよ。どうせあなたには最初会った時に全部見られてるんだし。……ちょっと恥ずかしいから下着はつけてくけど」


 唐突すぎる提案に頭を悩ませた。

 普通に考えたら異常極まりない誘いだ。露出について教えてなど気が狂ってるとしか思えない。


 それも女子が男子に、だ。

 俺の赤面が見たいとはいうが、何故そこまで俺如きに執着するかも謎だった。

 

 断るべき場面。

 けれど一方で、彼女の提案をノータイムで断ることができない俺がいた。


 俺はこれまで一人で露出を行ってきた。

 そのことについて寂しいとは思わなかったし、寧ろだからこそ、より深く真摯に露出と向き合ってこられたように思う。


 しかし誰かに胸の内を晒したいという願望は、悔しいがずっと燻っていた。

 自分の深いところまで曝け出せる相手ができるかもしれない。

 その甘い蜜が頭の上に滴り落ち、重みを増していくのを感じた。


「……まあ、君がいいなら」

「じゃあそういうことで。今から予定立てとこっか。いつにする?」

「一応三日後にやろうかと思ってた」

「ならその日で。じゃあね、楽しみにしてる」


 白銀はひらひらと手を振りながら去っていった。

 後に残された俺は、どうしてこうなったと古のコピペのように踊りながら頭を抱えるのだった。

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