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14話 混・浴

 浴室の扉を開く。

 ここから先に待ち受けているのは肌色一色のお色気展開だ。


 しかしプロの露出狂として邪な気持ちを抱いてはならない。

 露のつくものは大抵好きな俺でも、今だけはどんな劣情も露呈させてはならないと本能で感じ取っていた。


「…………」


 俺に続いて、白銀エイミが浴室に入場する。

 体には大きめのタオルを巻いているので、胸も股間部も隠せてはいる。


 だがそんなのはあってないようなものだった。

 普段の露出とは違う、プライベートな空間に半裸の女性がいるという異常事態が、俺を混乱させていた。


「……それじゃお湯を当てていくから、じっとしててくれ」

「うん」


 まずは滑らかな足に向かってシャワーを向ける。

 いきなり心臓に近い部位の温度を変化させてはいけない。

 足先からゆっくりと温めていくのがセオリーだった。


「……なんか、あんまり寒いとシャワー当てた時、熱いとか冷たいとかよく分からなくなるよね。特に足先」

「あ、分かる。俺も冬に露出した帰りにお風呂入ると大体そうなるんだ」

「裸だと尚更だろうね」


 さりとて露出狂のプライドとして靴下を履くことも許せなかったので、基本的に冬場は毎回そんな思いをしながら全裸になっていた。


 本当なら靴すら履きたくなかったが、流石にそれは無理があった。


 ……しかし、意外と普通に会話ができている。

 一時はどうなることかと思ったが、この調子でいけば和やかに混浴を済ませられるかもしれない。


 そうだ。これは混浴なのだ。

 ドイツでは混浴サウナは当たり前だし、日本ですら混浴の温泉は存在している。

 であれば露出に対して神聖な想いを抱いている俺が、女性相手に下劣な反応を催していいはずがない。


 これは将来の予行演習だ。

 そう思うと、自然と昂りも収まってきた。


「あったかい……」


 白銀の冷えた体を温めていく。

 わざわざ家に帰らず、あんなところで雨宿りをしていた彼女に何があったのか。

 気にはなるが、不躾に聞くことでもないように思えた。


「そうか。よかった」


 だから何も聞かなかった。

 ぶっちゃけ自分でやれよと思いながらも、黙々と彼女の体にシャワーを当てていく。


 そこで気づく。

 ──お湯に濡れて、タオルがピッチリと肌に張り付いていることに。


「……!」


 そのせいで白銀の体のラインが露わになる。

 どころか、薄めのタオルが透けて中身まで見えてしまいそうだった。


 隠すことが、逆にエロスに繋がる。

 見えないからこそ、妄想力が掻き立てられる。

 そういう点では腕のないミロのヴィーナス像や、首のないサモトラケのニケ像にも通ずるものがあった。


 普段なら綺麗とこそ思えど邪な情念など湧きようもない。

 しかしこの特殊な状況も相まって、少し怪しくなってきた。

 芸術家を自称しておきながら完全には振り切れていない自分が情けなかった。


「こうなったら……」


 あとは白銀自身に任せて、俺は後ろを向いているしかない。

 そう思ったところで、急に彼女が俺の胸に頭を置いて、体を預けてきた。


「なにを」

「……ごめん。ちょっとだけでいいから……このままでいさせて」


 詳細なことは分からなかった。

 ただ何か、想像もつかないような辛いことがあって、誰かにもたれかかりたいのだろうことだけは推測できた。


 その気持ちには覚えがあったから。

 だから俺はなにも言わずに、そっと彼女を抱き留めた。


「よしよし」


 シャワーで冷えた体を温めながら、まるで抵抗のない絹のような柔らかさを持つ髪を梳いていく。

 女子にしては背丈の大きい、けれど線が細くて、何故だか小さく感じる体から熱が伝わってくる。

 

 邪な感情は、知らないうちに消えていた。

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