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12話 女三人寄らばとてもこわひ

 10月も下旬にさしかかろうかという時期。

 中間テストの結果が配られた。

 俺の順位は30位台と、比較的良くはあるが取り立てて自慢できるほど良くはない位だった。


「ふーん、30位台とはやるじゃねぇの。流石は俺の親友だな、柊一」

「内海」

「この調子で頑張れよ。いつか俺の隣で肩を並べて歩けるように、な」


 そういって内海はどこかへ去っていった。

 今回数学で赤点取って補習コースまっしぐらの馬鹿の癖して、何を格好つけてるんだろうと思った。


「今回は結構自信あったんだけど」


 昔からそうだった。

 人より努力しても、人並みの結果しか出せない人間なのだ。

 勉強は一日に二時間、最低一時間は必ずこなしているというのに悲しいものだった。


「そういや白銀は何位なんだろう」


 彼女のことだ。なんだかんだで高い点数を取っていそうな気がする。

 ああいう学園の美少女キャラは文武両道の才媛だと相場が決まっているのだ。

 ラノベで見た。


 アニメみたいに成績の順位が掲示板に張り出される学校だったら調べられたものを、残念ながらこの学校ではそういうイベントは存在しなかった。


 後で聞いてみよう。

 そう思いながら、俺は昼食を食べ終えるまでの時間をいつも通り過ごした。


 そして昼休み。

 内海という唯一の友達が補習の現実から逃避するために外へサッカーをしに行ってしまったので、白銀と会えたらいいなぁ、と思いながらその辺をふらふら歩くことにした。


「……ん?」


 そうして散歩しながら露出に適していそうなポイントを探す暇潰しをしていると、人気のない校舎の一角で微かに声が聞こえてきた。


 不良がたむろでもしているのだろうか。

 興味をそそられた俺は、そっと様子を伺うことにした。


「ねえ、ちゃんと分かってんの!?」


 急な大声に少し驚いた。

 声質からして女子だろう。剣呑な雰囲気を漂わせる罵声に、俺は息を殺して近づいた。


 そこにいたのは見覚えのある女子三名だった。

 そしてその女子たちに囲まれて、どこか所在なさげに突っ立っているのは白銀だった。


「あんたに告白した男子はね、結菜が好きな人だったんだよ!?」

「どうせあんたからちょっかいかけて気持たせたんでしょ!?分かってんだからね!」

「結菜泣いてたんだよ!?あんたのせいでね!」

「…………」


 これは、あれだろうか。

 修羅場というやつだろうか。


 今し方聞き届けた情報を整理する。

 白銀はどこぞの男子に告白されて、その男子は結菜なる女子の好きな相手だった。


 好意を寄せていた人物が別の女性を好いていたことに傷ついた結菜女史は大層傷つき、仲間の女子集団が白銀への詰問に乗り出した。


 こんなとこだろうか。

 まるで少女漫画にありそうな展開に、不謹慎だが興奮する自分がいた。


「……知らない。その男子ともほとんどロクに話したことないし。こっちだって興味ない相手に好かれて、こんな変ないちゃもんつけられて、いい迷惑だよ」

「は?なにそれ。調子乗ってんじゃねぇよ」


 凄い。女子らしい感じの罵声からドスの利いた脅しに一気に早変わりした。

 女子って本当にこういうのあるんだ。

 ちょっと楽しくなってきたが、流石にそろそろ自重すべき場面だろう。

 なにより俯く白銀が見ていられなかった。


 俺は数メートル距離を取ると、さも今やってきましたよと言わんばかりの名演技で女子たちの集団に近付いていく。


「うわー静かだなーこういうところで一人のんびりしたいもんだなー」

「!人の声!?」

「あー、一人最高!一人最高!お前も一人最高と言いなさい」

「な、なにあいつ……一人で何言ってんの」

「絶対やばい奴じゃん、関わらない方がいいよ」

「い、いこっ」


 人が、それも見るからに頭のおかしいやばい奴が近づいてきたことに気づいた女子三人は足早に去っていった。

 あとに残されていたのは、右手で左腕を掴みながら虚空を見つめて突っ立っている白銀と俺だけだった。


「や」

「……よっす」


 随分と落ち込んでいるようだった。

 女子三人に囲まれて厳しく当たられていたのだから、そうなっても不思議ではなかった。


「今のはいじめか?」

「……そこまでは。ただ、女の嫉妬は怖いって話」

「なるほど。痴情のもつれか」

「そんな感じ。私にとっては追突事故だけどね」


 白銀はぼっちだった入学当初の俺ですら聞き及ぶくらいの超絶美少女だ。

 それでいつも一人なのだから、普通の男子ならワンチャンを狙って告白してもおかしくないだろう。


 今までも沢山されてきたはずだ。

 ただ今回は、それが思わぬ悲劇を招いてしまったというだけで。


「何かできることはあるか?」

「ない。ほっといて」

「そうか、ならほっとく」


 人は他人に構われたい時とそうでない時がある。

 彼女にとって今が後者の時間であるというなら、無理に構っても逆効果にしかならなかった。


 無論口にした言葉とは裏腹に本当はよしよし慰めてもらいたい可能性もあるが、それを見抜くには俺の対人スキルが不足している。


 今度顔を合わせたときは平均して通常の2.5乗くらい優しく接しよう。

 そう決意しながら、空の向こうから近づく雨雲を眺めるのだった。

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