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柴犬ドクター・ミヤジマ  作者: 細川あずみ
2/7

聴導犬ってカッコイイ

 これが、チビ柴ヤローこと、聴導犬の「フクヤマ」との出会いだった。名前は「フクヤマ」だが、住んでいるのは広島市。聞くと、生まれは福山市らしい。元々は保護犬で、名前なんてものはなかった。福山市の愛護センター出身で、聴導犬の訓練を重ねていき、見事試験に合格。今年から晴れて「聴導犬」として、任務を果たすために日々働いているらしい。が、全国でも聴導犬というものは珍しく、実際に見たことがある人間の総数は少ない。

 調べてみたところ、全国で聴導犬の実働頭数は58頭だ。オレはただの柴犬だが、盲導犬は知っている。元盲導犬、いわゆる引退犬が、このドッグランに遊びに来たことがある。しかし、聴導犬は聞いたことがなく、フクヤマに何度も「え?盲導犬?」と聞き返してしまったほどだ。

「ちょ、お、どおけん、です」

「ほ、ほぅ…」

「聞いたこと、ないですよね…」

 フクヤマは、「やっぱり」といった感じでションボリした。オレはヘソ天状態から体を起こし、「こっちに来い」と、目で合図した。フクヤマは、恐る恐るではあったが黙って付いてきた。

「ここは…?」

「オレのクリニックよ」

「クリニック?」

「まぁ、いつの間にかそうなった。ただの小屋だがな。オレの飼い主は、オレの言葉が分かるんだよ。最近、相談が多いから、どこか相談出来るような部屋みたいなもんを作ってくれって頼んだ」

「すごい…」

「じゃ、たちまち肉球見せてや」

「たちまち?」

「あ、こっちの言葉でな、『とりあえず』ってこと。フクヤマは、広島に来てどんくらいや?」

「この春に引っ越してきたんで、2ヶ月くらいです」

「ほーかほーか。ぼーちぼーち、慣れていきぃな」

「はいっ」


 このクリニックでは、まず肉球診断から入る。肉球診断とはその名の通り、肉球で診断をするものである。透明なアクリル板が立ててあり、そのアクリル板に両脚を乗せて、バンザイした状態になってもらう。肉球の色や形、大きさ、硬さ柔らかさなどを診ていく。また、爪の伸び具合も重要だ。

「ふむふむ。フクヤマは、結構歩いてるねぇ。ご主人様は、外へ出歩くのが好きなのかい?」

「そうなんです!」フクヤマは、バンザイした状態のままで答えた。

「ボクに出会う前は、家にこもってばかりだったそうです。でも、ボクと出会ってから、外に出るのが楽しくなったらしくて」

「ほほーぉ。そりゃぁ、良かったねぇ」

 オレは、アクリル板を片付けて、フクヤマと向かい合った。

「そもそも僕たち補助犬は、社会参加を促すために存在しています。もちろん、家で過ごす中での安全性も、とっても大事なことなんですけど、外に出てあちこち出かけて、人と触れ合うって、やっぱり素敵なことだと思うんです。ボクが居ることで、『この人は聞こえないんだ』って分かってもらえます。聞こえない人も、この社会で一緒に暮らしてるってこと、もっともっと知って欲しいんです」

 フクヤマは、キラキラした瞳で一気に話した。オレは、何だか恥ずかしくなった。ここまで熱意を持って、今まで生きてきただろうかと。純粋に、スゴいと思った。

「ボクのご主人は、色んなお店に入って、ボクのことを知ってもらえるようにと、すごく頑張ってるんです。でも、結構断られるケースが多くて」

「断られる?」

「はい。犬は入れませんって言われちゃって」

「そうなんだ…」

「ペットじゃないって説明はするんですけどね。盲導犬はいいけど、それ以外はダメとか、犬は外に繋いでくださいとか、そういうの多いですね」

「ちなみに、どんな場所に入るの?」

「飲食店とか、映画館とか、病院とか、スーパーとか、本屋さんとか…」

「へぇー!色んなトコ行けるんやね」

「そうなんです。僕たち補助犬は、ユーザーさんの体の一部なんですよ。メガネかけてる人が、外にメガネ置いていかないですよね?それとおんなじなんです」

「そっかー」

 オレは、自分が何も知らなかったことにも驚いているが、フクヤマがイキイキとしていることにも驚いている。驚きというよりも、感激している。フクヤマは、自分が聴導犬であることに誇りを持っている。

「ちなみに補助犬っていうのは、盲導犬と聴導犬のこと?」

「盲導犬と、介助犬と、聴導犬のことを、身体障害者補助犬って言います」

「へぇー」

 介助犬というのは、多くは車イスユーザーの補助をする。靴下を脱がせたり、落としたものを拾ったり、ドアを開けたり、そのユーザーに適したオーダーメイドな補助をする。他にも、杖をついて歩く人の補助もする。

「きっと人間の中では、ラブラドール=盲導犬って、もうイメージが付いてるんですよね。でも、僕たち聴導犬は、まだ頭数も少ないし、犬種が決まってないからイメージが付きにくくて、覚えてもらいにくいんです」

「確かに、盲導犬はラブとか、ゴールデンだなぁ。」

「聴導犬は、ボクみたいに保護犬出身も結構居るんです。音を教えるので、体の大きさは関係なくて、ボクより小っちゃい聴導犬も活躍してるんです」

「へぇー!なんか、聴導犬ってカッコイイね!」

「でしょう?補助犬みんな、カッコイイんですよ。だからこそ、知られてないのが悔しくって。何とかして、認知度を上げたいなって」

「それで、あの看板を見つめていたと…」

「はい、ここに来れば、何か分かるかもしれないと思いまして」

「ちなみに、ここはどうやって知ったん?」

「あ、元盲導犬のアストさんから聞きまして」

「え?あのアストさん?」

「はい、こないだ補助犬のイベントがあって、その時にアストさんがおりまして。半分は、ボクのお披露目会、的なイベントだったんですけど、補助犬みんな集まったんです。で、アストさんも遊びに来てまして、ちょっと相談を…」

「なーるー」

 まさか、アストさんと繋がっているとは。世間は狭いなぁ。

「アストさん、またここに来るハズだから、オレからも聞いてみるわ」

「ありがとうございます!」

「おっしゃ。ほんなら、めいっぱい走ってきんさい」

「はいっ!」

 フクヤマは、元気よくこの犬小屋、もとい、ドクター・ミヤジマクリニックを出て行った。

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