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柴犬ドクター・ミヤジマ  作者: 細川あずみ
1/7

プロローグ

 患者の仕事は聴導犬。耳が聞こえない人や聞こえにくい人の「耳」になる。日本ではあまり知られていないが、有名な盲導犬とおなじく「補助犬」というもので、「働く犬」の仲間なのだ。

「なかなか知名度が上がらなくてねぇ…」

「そうかぁ…それは困ったねぇ。ストレス発散の方法はあるのかい?」

「そりゃもう、ここのドッグランで走りまくることですよ!」


 そう。ここはドッグラン。ドッグランによく来る犬達と話しているうちに、いつの間にか相談されることが増えて、気が付いたら「ドクター」と呼ばれるようになっていたのだ。そのうち、どこからか噂が回り、長蛇の列が絶えないこともあった。それではみんなが困ってしまうし、オレも困る。

ということで、オレは飼い主に頼み込んで、ドッグランの中に小屋を作った。そこをクリニックと名付け、完全予約制にした。これで、オレの時間も確保出来る。なかなかいいアイディアだろう?

 申し遅れたが、オレの名前はミヤジマだ。犬種は柴犬。今年で5歳になる。オレの主人は、ここのドッグランの持ち主。犬と会話出来るという特殊能力を持っている。なので、オレの言葉も分かる。そのおかげで、ここにクリニックを作ることが出来た。

 今日も1件、予約があった。先ほど出て来た、聴導犬だ。




 このドッグランは、広島市の中でも有数の、カフェを併設したものだ。人間達はゆっくりとお茶をして、我ら犬達は思う存分走り回る。共に生きる者同士、互いの時間を設けて気持ち良く過ごそうという考えだ。

 最近は、「犬も家族の一員」という人間が増えてきたように思う。それ故、人間と犬とのすれ違いや、思い込みが原因の問題がしばしば起こる。

 そんな時、人間が相談するのはもちろん人間だが、犬の相談相手が居ない。たまたま、ここによく来る犬達から悩み相談を受けたことがきっかけで、犬の悩みをよく聞くようになった。オレは医者ではないのだが、いつしか「先生」「ドクター」と呼ばれるようになっていった。

 はじめは違和感があったが、生き物というのはやはり、慣れていくものである。しょっちゅう呼ばれていると、気持ち良くなってきた。

 誰が作ったかは分からないが、オレの小屋の前に「ドクター・ミヤジマ」と看板がある。意外に立派なものだ。それを見ると、誰かの役に立てるというのも、まぁ悪くはないなと感じる。誰が作ったか知らんが。

 その、誰が作ったか知らん看板の前に、茶色の柴犬が近付いていった。オレの体より、一回りほど小さい。中型犬よりは、小型犬に近い大きさだ。見た目は2歳頃か。

 オレはというと、ドッグランのど真ん中で背中をスリスリしていた。ここんとこ、背中が痒い。芝生に背中を擦り付ける柴犬。とかなんとか言って、SNSにアップされているのを見た。人間は、そんなことで笑う。そんな程度の笑いを求めている。きっと、疲れているのだろう。

「おーーーい」

 オレは、ヘソ天の体勢のまま、「ドクター・ミヤジマ」を見つめる柴犬に向かって叫んだ。この体勢は、SNSで人気らしい。オレのヘソ天姿をスマホでバシバシ撮っている人間が居て、初めは「なんだよ!」と思ったが、まぁこのドッグランが人気になるならいいかと思い、許している。オレに声をかけられたその茶柴は、一瞬固まった用に見えた。

「アンタだよーー、あーんーたーー」

 やっと自分のことだと気が付いたそのチビ柴ヤローは、声がする方を見た。そして次の瞬間、こっちへ全力で走ってきた。

「あのっ、あのっ」

「なんだ?」オレはヘソ天の体勢を崩さず、目線だけチビ柴ヤローに向けた。

「みっ、ミヤジマ先生ですか?」

 チビ柴ヤローは、絶世の美女にでも出会ったかのように、瞳をキラキラと輝かせていた。

「おぅ。オレがミヤジマだ」

「うおーーーーーーーーーっっっっ!!!」

 突然、そのチビ柴ヤローは、ドッグランを全速力で走り回った。かなり速い。さすが、オレとは違って若さ溢れる肉体、筋肉を持ち合わせている。3週ほど走り、そいつはオレの目の前で急停止した。そして言った。

「聴導犬って、知ってますか?」

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