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11.観戦室での謎盛り上がり(1)

 ***


「はぁ……」


 敗者専用、観戦控室にて。

 早々に敗れたジークはぐったりと溜息を吐いて周囲を見回した。


 この部屋はギルド協会が用意してくれた、敗者の為の観戦所である。今まではギルド毎に分けられていた受験者達が一堂に会し、どことなく悲壮感がが漂っているのは恐らく気のせいではないだろう。

 この部屋では《投影》対応魔法が設置されており、闘技場程ではないにしろ細部まで生き残った受験者の立ち回りを観察できる仕様になっている。これを観て上位陣の技術を取り込めという粋な計らいだ。


 目が良いので遠慮して遠くから《投影》を観ていると、他所のギルド員達が囁き合う声が聞こえてくる。獣人は五感が鋭いのだ。


「今期の試験はハズレだな。レベルが高過ぎて、俺達有象無象は協会に顔さえ覚えて貰えないぞ」

「そうは言うけど三大ギルドの本命が途切れる事も無いし、このまま一生Aランクになんて上がれないかもな」

「ブロック戦から上に行ければまだ希望はあるから、あんまり気を落とすなよ」


 とんとん、と軽く肩を叩かれ驚いて振り返る。

 先程、グロリアに敗北したエルヴィラが立っていた。ただ――


「ええ? そんなに悔しかったんですか?」


 目の前に現れた彼女は、ちょっと周囲が引くくらいの号泣っぷりだ。その両目からはとめどなく涙が流れ続け、持っているハンカチはしっとり湿っている。事情を知らない周囲のギルド員達はそそくさとその場を去って行ってしまった。誠に遺憾である。

 顔見知りではあるので放置はできず、オロオロと視線を彷徨わせているとエルヴィラは泣きながらも笑顔を見せた。


「私……私、実は今回Aランクに上がれなかったらパーティをクビになるというか……」

「え? それはギルドの規約的に問題ないのですか?」

「分かんない……。でもここまで言われてるのに残り続けるのもあれだし、もういっそこれでよかったのかも」

「それは確かにそうですけど」


 そういえばエルヴィラは上位Aランクパーティの一員である。であれば、リーダー・リッキーが不祥事を起こしてもあまり大事にはならないだろう。サブマスターのゲオルクは実力至上主義であり、パーティ内での揉め事にエルヴィラの側で介入してくれる事は無さそうだ。

 それに彼女の言う通り、そういった人道外れた行為を平気で強いるようなパーティに居座り続けるのも精神的に辛いだろう。ここは潔く身を引くのが一番ダメージが少ない可能性がある。


 そうこうしている内にようやくエルヴィラは落ち着いてきた様子だ。


「あー、何だかすっきりしたかも」

「そうですか。俺は吃驚しましたけど、医務室にでも行きますか?」


 泣くだけ泣いて、人に話をしたらすぐに落ち着く。驚くくらい感情に正直だ。周囲にはいないタイプでどう接していいか本当に分からない。


「いや、大丈夫。それより、《レヴェリー》代表のグロリアを応援しないと! クビはクビとして、カワイイ後輩がまだ生き残っているもの」

「え? あ、はあ……。いや、エルヴィラさんがそれで良いのなら良いですけど」


 ――この人、いい人だな……。

 何故か漂ううっかり感というか、やや抜けている感が拭えないが。


 と、ふと前方から聞こえて来た《相談所》という単語にジークの三角形の耳がピクリと反応する。


「なあ、今やってるジモンってヤツ。こいつ、《ネルヴァ相談所》の元メンバーらしい」

「《相談所》? ってのはよく聞くけど、私はよく知らないのよね」

「頭のイカレた戦闘集団だと思っておけばいい。見てみろよ、格が違うぜ。格が」

「確かに彼、力強過ぎてちょっと恐いわ……。目の前に立ったら挽肉にされそう」

「そうだよなー。ヤツは《レアルタ》から出てて、《レヴェリー》も本命出してそうだけど……あの細さじゃなあ」

「ああ、顔が恐い彼女ね。名前は確か、そう、グロリアちゃん。このジモンと当たるには確かに頼りない手足ではあるわよね」

「今期はタイミングが悪かったな」


 ねえ、とエルヴィラに声を掛けられて我に返る。


「なになに? 何か面白い情報でも拾った? 私にも教えなさいよ」

「はい。それが――」


 今耳に入った噂を共有する。

 うんうん、と頷いていた彼女には先程まで子供のように泣き喚いていた面影はもうない。切り替えがあまりにも速過ぎる。


「へえ! 《相談所》からもう一人出てたってわけね。うーん、とはいえ私も《相談所》がまだあった時代からギルドにいた訳じゃないから、何とも言えないわね。今、準決勝中のあの大男がジモン?」

「そうです」


 改めて《投影》で映し出されたジモンという男を見やる。

 彼は獣人・ウヴァイン族だろう。草食動物に見られる湾曲した太い角。菱形の耳に筋骨隆々な骨太であまりにも立派な体格。これらがウヴァイン族の特徴である。

 黒い短髪と黒い瞳、険しすぎる表情は子供が即座に泣き出す程だ。悪すぎる人相も相俟って、とても恐ろしい存在に感じる。

 彼等ウヴァイン族は当然、獣人の中でも一、二を争う怪力の持ち主だ。力だけであればジークの同族であるヴォルフ族ですら一蹴する。

 ただし見て分かる通り、とにかく身体が大きい。小回りは利かないし、力があまりにも強いせいで細々とした作業に向かない所は欠点か。

 獣人共通の弱点としては魔力があまりにも少なすぎて魔法の乱発ができない点だろう。


「つ、強そう……!!」


 大男――改め、ジモンが対戦相手の頭を大斧で粉砕したのを見たエルヴィラが戦慄している。全く同じ感想を抱いたので、グロリアが心配になってきた。


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