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07.新入り時代の先輩

 ***


 試験会場、と言うのは闘技場に併設された施設の事だ。

 この辺もギルド協会の所有物なのかは不明瞭だが、ともかく広くて新しい。そして綺麗なのでリラックスした状態で筆記試験を終えた。手応え的に合格点までは取れているに違いない。緊張の種がまた一つ減ってくれて嬉しい限りである。


 グロリアは現在、実技の控室に移動してきていた。

 どうやら筆記試験時からずっと他のギルドとは隔離されているようで、周囲には《レヴェリー》のメンバーしかいなかった。おかげでジークとも会話でき、更に緊張が和らいだのはありがたかったが。

 また、実技試験の控室もギルド毎に分かれている。同室には筆記試験会場と同じ面子が揃っていた。


「実技の模擬戦は投影か。怪我をしてもあれだし、当然だな」


 試験要項を読み返していたジークが、得た情報を共有してくれる。なんて気が利くのだろうか。

 何か言葉を返そうとしたがしかし、それは女性の声に遮られた。


「――当然よ! 相手を殺してしまうような魔法も、剣技も皆が使ってくるから注意するのね」

「え? ……あなたは上位Aランクパーティの、エルヴィラさん?」

「そうよ。初めまして。そして久しぶりね、グロリア」

「こんにちは」


 彼女はエルヴィラ・スペンス。

 ヒューマンの女性で、几帳面に編み込まれた金髪と翡翠の瞳が印象的だ。平均より高い身長に言動の端々から現れる謎の自信、そしてフレンドリーな空気が特徴的。

 そんな彼女だが、実は《レヴェリー》加入直後、同期達と併せて面倒を見てくれた先輩である。グロリアより1年早くギルドに加入したらしい。現在はリッキーが率いるパーティで活動しているようだが、詳細はよく分からない。

 彼女はとても面倒見がいいので、ギルドで会えばよく声を掛けてくれる。ただし彼女のパーティリーダーであるリッキーは少し苦手だ。人を、そう、値踏みするような目が。


 横にいたジークが小声で情報を補足してくれた。


「知っているかもしれないが、エルヴィラさんは既にAランク試験を三度受けている。有力な情報を持っているかもしれないな」

「そこ、聞こえているわ! 勿論、情報はたくさん持っているわよ。三度も受ければそうなるわ! 可愛い後輩達の為に基本的な事を教えてあげる」


 特に頼んではいないが教えてくれるようだ。

 普通にありがたいので耳を傾ける。エルヴィラは止めない限り、自分がやると言った事を強引に進める傾向にあるので黙っていれば話が進行してくれるのもやりやすい。

 エルヴィラのパーソナル情報は知っていたジークだが、それでも強引な話の展開に目を白黒させている。人柄は知らなかったらしい。


「まずはブロック分けね。私達はBブロック。このブロックはギルド毎に分かれているの。A、B、Cは所謂三大ギルドで1ブロックずつ与えられているわ。残りのDブロックは参加者が少ないその他のギルドで構成されているの」

「……あれ。もしかして、最初は同ギルド内での模擬戦になります?」


 ジークの狼狽に対し、エルヴィラが良い笑顔で親指を立てた。


「物分かりがよくてよろしい! そう! つまり、私達はグロリアと同期に出場しちゃった運が悪いメンバー同士って事! ははは……ハァ……」

「気持ちはまあ、分かります……」


 持ち前のフレンドリーさを活かし、早速エルヴィラはジークと打ち解けている。力も欲しいがコミュ力も欲しい。そう考える今日この頃である。

 そんな事を考えていた丁度いいタイミングで、控室にスタッフが入って来た。ジークと、そしてグロリアが呼ばれる。

 模擬戦は投影で行うので、投影室へ移動となるのだ。


「……そういう事か、イェルドさん。いやいい、よろしく頼むよ。グロリア」


 何か一人で悟った様子のジークはスタッフの方へ歩いて行ってしまった。呼ばれているグロリアもその後を追う。なんて気まずい対戦表なのだろうか。


 ***


 観戦会場にクリメントと共にやって来たイェルドは、久しぶりの闘技場を目を細めて観察した。

 最早、様々な法改正で人間が生身で戦うような見世物は禁じられてしまった。そうして残った闘技場をリメイクして作られたのか、投影専用闘技場だ。

 闘技場らしいステージはそのまま残っているが、空いている天井は昼間であるにも関わず夜の様相を成している。ドーム状に形成された投影の為の結界のせいだ。この闘技場に立体感を持った受験者達が写し出される事によりあたかも目の前で生身の人間が戦っているように見えるという寸法だ。

 何度か闘技場で競技を観戦したがなかなかの臨場感だ。しかも安全。欠点があるとすれば、多くの魔法を使用し魔力をも使用するので観戦料が割高という事くらいか。


 ――と、横の席で対戦表を見ていたクリメントがポツリと言葉を漏らした。


「当然だけどさ、ジーク氏とグロリア氏はそちら様のパーティな訳でしょ」

「ああ、そうだな」

「……ぶっちゃけ、ジーク氏ではグロリア氏に勝てなくないですか? 負けると分かってて受験さすとか、どんな采配なのか。僕、恐ろしくて震えが止まりませんなあ!」

「いいや、それならそれでいい」

「たまに恐ろしく厳しいですな。これがSランカー。おお、こわ」


 ジークとグロリアの実力差には天と地ほどの開きがある。

 それはジークを別の誰かに挿げ替えても同じだ。けれど、下手にグロリアがヒューマンであるばかりに誰もが彼女に手を伸ばせば届くと考えている。

 端的に言って、それは無理だ。

 手を伸ばせば届く程度の考えでは追い付くどころか、突き放されるだろう。

 現在のジークに、グロリアの新パーティでこなせる役割は無い。というか、あの面子に盾は要らない。それは即ちジークの成長の余地までもなくなるという事だ。

 彼は真面目な獣人だ。役割が無いという事実に耐えられないだろう。

 本当にグロリアのパーティを目指すなら、ジョブの転向を視野に入れるべき段階だ。故にブロックの関係で当たると分かっていたのに受験を煽った。


 ――さあ、どうするジーク? 普通にやっていては勝つ事はおろか、追い付く事さえできないぞ。

 これは重要な分岐点だ。

 まずは普通にやっていては足りない事を知らなければならない。分かっているようで、分かっていない。その部分を理解してほしい。


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