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04.連絡事項(1)

 ***


 受験が決まってから更に数日が経過した。


 イェルドに呼ばれているグロリアは、足早にギルドの一室を目指している。その途中で呼び止められた。


「――グロリア」

「こんにちは」


 ジークだった。何だか真剣な表情だが、気の利いた言葉が思い浮かばず変なタイミングで挨拶してしまう。

 ただし割といつもの事だからか、彼がそれに関して気にした様子は無かった。

 一緒にいるベリルも怪訝そうというか、面倒臭そうな顔をしている。彼は人の顔と名前を覚える気が無いのでもう一度ジークについて紹介するべきか逡巡していたが、それは杞憂となった。


「ああ? テメェは……また何か用事かよ」

「俺の事を覚えていたみたいで光栄だ。いやちょっと、グロリアに用事がある」


 ――散々暇つぶしに付き合ってくれた相手だし、流石に覚えてたみたい。

 本来ならばあり得ない状態にグロリアは内心で拍手喝采を送る。ベリルに存在を記憶されるなんて、それなりに無害認定されており不快な相手でもないという事に他ならない。


 ジークの言葉に鼻を鳴らしたベリルがひら、と片手を振った。


「先に行く」

「分かった」


 目的の場所は分かっているのか心配になったが、ベリルの足取りに迷いはない。大丈夫だろうと一旦、その件については忘れる事にした。それにしても、彼は意外にもジークに寛容だ。

 ジークの人を傷付けたり、人間らしい卑しさを持たない性質は竜人の緊張をも解したらしい。そう、人はベリルが思う程性根の腐った連中ばかりではないのだ。


「それで、用事は何?」


 ああ、とジークはいやに真剣な面持ちを作り直す。やや言い淀んで、やがて用件とやらを切り出した。


「グロリア。俺もAランクの昇格試験を受ける事にしたんだ」

「そう」


 ――一人じゃない!! 嬉しい!

 心中で喜んでいると、畳みかけるように彼は本題を話始める。


「だから……もし俺がAランクに昇格できたのなら、新しく作るグロリアのパーティに加入させてほしい」


 非常にありがたい申し出だ。

 というか何ならランクなど関係なく加入してほしい。いやそもそもなぜ、グロリア自身は上がる事前提なのか。落ちたらイェルドのパーティメンバー続行で新パーティは生まれないのだが。

 ともかく加入してくれ。メンバー2人しかいないし、どちらもコミュ障という地獄の様相を成している。加えて、先程のやり取りを見るにベリルと揉めなさそうなのもポイントが高い。

 ――いや、まずはジークの申し出にOKを出さないと。


「分かった。加入していいよ――」

「そうか! それならよかった。お互いに頑張ろう」


 話を一切聞く事無くそう捲し立てたジークは人の良い笑みを薄らと浮かべた。


「じゃあ、イェルドさんに呼ばれているんだろ? 俺はクエストに行ってくる。引き留めて悪かったな」

「ちょ――」


 声は小さすぎて、ジークを引き留めるには至らなかった。

 物凄い勢いでロビーへと帰って行った獣人の彼を、グロリアは呆然と見送ったのだった。


 ***


 ジークを追う訳にもいかず、イェルドと待ち合わせしている部屋へグロリアは移動してきていた。

 既に先へ行くと言っていたベリルも、或いは呼んだ本人であるイェルドも揃っている。不可解なのは多少遅刻した訳なのだが、その理由をリーダーが知っていそうな事だ。生易しい笑顔を向けられている。


「よし、全員揃ったな」


 ――いや待って。結構な時間、ベリルとイェルドさんって二人きりだった? 超気まずそう。面白。

 一人で勝手に笑いそうになっているのを持ち前の硬すぎる表情筋で抑え込む。

 でもやっぱり入室した時に何の会話も無かった事を思い出すと、大声を出して笑ってしまいそうだった。不敬すぎるので我慢するけれど。


「試験の日程について知らせようと思って、お前達を呼んだんだ。技量はあるのに日付を間違えて、なんてやらかされたら困るからな」

「馬鹿にしてんのか」


 即噛み付くベリルを気にした様子もなく、イェルドが連絡書類をテーブルに並べる。


「Dランク試験は3日後、Aランク試験は2週間後だ」

「ああ? あと2週間もこの生活を続けんのかよ……」

「ベリル。正確には合否待ちの時間も含めておよそ3週間と少しだ。尤も、グロリアが首位通過すればこの待ち時間は消えるが」

「だそうだぞ、グロリア。つか、試験自体が2週間後? 遠すぎる」


 竜人のぼやきに、エルフは肩を竦めた。苦々しい表情をしている。


「あー、Aランク試験は花形だからな。Sランク希望がいればそちらに興味が移る可能性もあるが、大抵はAランク試験がそういう立ち位置になる。よって、開催は最後だ。実技試験は観客も多いし、調整も必要だからな」

「観客ね。敵情視察ってやつか」

「……ああいや、観に来るのはどこかの富豪だとかそんなのばかりだな。使える人員がどのギルドに所属しているのかを確認しに来ているようだ」


 ――えっ、待って待って待って!? 観客とかいるの!? そんな話、聞いてないんだけど!

 途端に緊張がピークに達したグロリアは、人知れず胃を抑えた。どうしてそんな、お披露目会みたいな状況で試験なぞやらなければならないのか。

 そんなグロリアの横で人間嫌い代表は、そのシステムに対し侮蔑のような視線を手向ける。


「野蛮な人間らしい見世物だぜ」

「人々はイベントに飢えている。勿論、お前が言ったような理由で観に来る連中もいるよ」


 言いながら、イェルドは並べた書類の内、1冊をベリルの読みやすい方向へと向けた。


「それじゃあDランクの試験内容から念の為、説明しておこう。まずは筆記。この間から貸している参考書。これから出題されるから、勉強は怠らないでくれ。そうだな、、5割取れれば問題なく通過するはずだ」

「はいはい」



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