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02.量産型の扱い(2)

「何でも良いけれど、貴方達のパーティに入るつもりはないわ。どこかへ行って。これから用事があるの」


 いい加減うんざりしてきたのであろうジネットが、虫でも追い払うかのように手をしっしと振る。が、驚くべき事に男達は一切どこかへ行く気配が無かった。

 どうやって追い払うか、とグロリアは頭を悩ませる。

 ――大きな音でも鳴らしたら、驚いてどこかに行かないかなあ……。

 知能が獣のそれと同等くらいに見えるので、音でも鳴らして威嚇すればどこかへ行かないかと本気でそう考える。というか、異様な音を出せば事務員や最悪、サブマスターが騒ぎを聞きつけて駆け付けてくるかもしれない。


 そうと決まれば早速実行だ。グロリアは瞬時に腰のベルトに付いている「倉庫」の魔法石を起動。中に入れたままの音が鳴る爆弾を取り出す――


「悪い、待たせた! あれ!? 知らない顔がいるけど、どうした?」


 あっけらかんとした声、同時に肩に重い手を置かれて手元が狂った。彼が誰なのかは分かる。集合がいつも最後の同期、ロボ・ガウスだ。

 しかし、今は彼の事を詳しく紹介している場合ではなかった。

 ロボが突如肩に手を掛けたせいで狂った手元。取り出した物が爆弾の形ではなかったが為に、手から滑り落ちてそれは――床に、突き刺さった。何を取り出してしまったのかと足下を見て、グロリアは瞬時に自分がやらかしてしまった事に気付く。

 取り出してしまったのはよく研がれて鋭利に輝くナイフだ。手を怪我しなくて本当に良かった。


 しん、とロビーが水を打ったように静まり返る。空気は完全に凍り付き、誰も何も言わないし動かない。それは勿論、関わっている者達だけでなく無関係のギャラリーもそうだ。

 そんな中、最初に我に返ったのはロボその人だった。


「どっ、どどどど、どうした!? 人殺しは良く無いぞ、うん、よくない! 一旦、落ち着こう!!」


 ――そうじゃないって、馬鹿! 間違っただけなの!!

 勘違いの推理を大声で叫ぶ同期にくらりと目眩がする。これでは殺人未遂犯ではないか。勘弁してくれ、ただでさえ声が大きいのにそんな事をロビーで叫ぶな。

 その言葉を受けてか、途端にロビーがざわめきを取り戻す。賑やかな意味合いは全くなく、動揺の空気のみが広がっていた。


 ――ど、どうしよう! でもまずはナイフを回収しないと……!

 条件反射で足下のそれを拾おうとした。が、その腕をロボに捕まえられる。彼は獣人のヴォルフ族。人間の女が敵う力では無く、とんでもない馬鹿力のせいで行動を抑え込まれてしまった。


「お、落ち着け! 流石に殺人は人生が終わるぞ、グロリア! 俺達が話くらい聞いてやるから! なっ!?」

「さっきから何を言っているの。別のを取り出そうとしただけ」

「別の武器で殺害を目論んでいたのか!? そうだよな、お前ともあろう人間が公衆の面前で刺殺はないよな。もっとバレ辛い方法で殺るに違いない」


 そうじゃない。そうじゃないと説明しなければならないが、周囲で静観を決め込んでいた野次馬達がとうとう参戦し始めた。何故もっと早く、ナンパがどうのと言っている時点で止めてくれなかったのか。


「そうだぞ、ロボの言う通りだグロリアさん」

「私達も見ていたけど、確かに鬱陶しい男達だったと思う。でも、殺しちゃったらあなたの負けなの。耐えて欲しい」


 ――だから! やらない、って言ってるでしょ!

 当然の事だが、心の叫びは誰にも届かない。また、グロリアだけでなくナンパ男達の方にも野次馬達が苦言を呈している。


「まだ研修中だから言いたくないが、パーティに既に入っているメンバーを無理矢理引き抜こうとするのはマナー違反だ」

「グロリアは確かにBランカーだけど、煽らない方が良い。彼女は殺る時はマジで殺るし、それをお前達が返り討ちに出来るとは到底思えない」

「もっと無表情の顔面から漏れる『圧』を感じ取れるようにしないと。クエストへ行くようになったら事故死は避けられないよ」


 普通に傷付いた。どうやら自分の顔面からは圧力が放たれているらしい。そんな事は無いだろう。精々考えている事なんて、「人が多いなあ」と「夕飯何にしようかな」くらいだ。

 そんなグロリアの心中など露知らず、神妙そうな顔をしたロボが周囲に厳かな様子で声を掛ける。


「悪いけど、そこの3人組を連れていってくれないか。こっちでグロリアは見ておくから」

「ああ、分かったよ。もっと早く止めに入れば良かったな。恐ろしい事態に陥るところだったぜ……」


 こうして、ナンパ3人組はギャラリーに引き摺られるようにしてロビーから去って行った。また、それまでグロリアを取り囲んでいた野次馬達も一件落着と言わんばかりに解散していく。

 そこでようやく、グロリアは床に刺さっていたナイフを回収するに至った。が、それを見ていたロボが顔を青ざめさせる。


「まだ殺意が収まらないのか……!? お、俺を刺しても何も解決しないぞ!」

「いや、落とした武器を回収しただけ」

「何だ、そうか。驚いたじゃないか……」


 驚いたのはこっちだ。最初からずっと落とした私物を拾おうとしていただけである。間に挟まった騒動全部要らない。


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