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16.相性というものがある(1)

 ***


 時は十数分前に遡る。


 イェルドのパーティ、古参メンバーの一人であるユーリアは薄暗い森の中を軽い足取りで進んでいた。

 相方であったキリュウは既にグロリアの様子を見に行くと言って離脱している。

 一人で出歩くのはなかなかに良いものだ。森林浴、とでも言うのだろうか。淀んだ人里の空気から隔絶されたこれらは、身体の内側を浄化してくれるかのようである。


「――ふう、少し暑くなってきたわね。火でも焚いているのかしら?」


 明らかに自然ではない、軽い熱風のようなものが頬を撫でるので首を傾げた。森の中で火など正気を疑うが、誰かが変異種と交戦しているのだろうか。空を見上げるも、狼煙はどこにもあがっていない。


 ――あら……?

 そうこうしている内に、ガサガサという不躾な音を耳が拾う。公園にいる魔物か、或いは変異種または操者だろうか。出て来るのが楽しみである。

 ユーリアは《倉庫》から豪奢な杖を取り出した。木製、大振りにして魔法石をいくつも付ける特注品である。Aランクへ上がった時、お隣の職人ギルド《ミスリル》の制作を依頼した。素材を大量に集めるのが大変だったが、それでも苦労した甲斐がある逸品だ。


 《サーチ》を見つつ、迎撃の構えを取る。間違いなく人に寄ってくる動きだし、迷いのない直線的な動きからして人間では無さそうだ。障害物をものともせず、知能の低い――つまりは魔物の類である。


「来たわね」


 敵の発見は、相手が先。《サーチ》での動きが速くなったのを見て、ユーリアは一度サーチを打ち切った。中程度のサイズである《防壁》の魔法石を使用し、身を護る。

 やがて、突進する勢いで飛び出してきたのはそれなりによく見掛ける魔物、エーミュウ――の、変異種だった。


 突進からの強靭な脚を振り下ろす攻撃で、簡単に《防壁》が砕かれる。人の肉など容易くズタズタに引き裂けるであろう爪に息をのんだ。


 ――これは、相性がとても悪い。

 エーミュウ・変異種の情報はギルド員皆に共有されている。高い魔法防御性能を持つのは知識として頭の中にあった。

 瞬時に対応不可能と知り、ユーリアは魔法を用いて煙弾を空へと打ち上げる。本来ならいるはずのキリュウがいないので、簡単に救援を呼ぶ訳にもいかないのだが怪我人が出ればリーダー・イェルドの評価に障る。ここで瘦せ我慢するのは悪手だ。


 《防壁》を張り直し、《サーチ》を起動する。救援が近くに来た時、すぐに把握する為だが――


「もう誰かいる……!?」


 真っ直ぐに向かってくる赤い点。まさかこれもエーミュウではないだろうな、と思いつつ視線を巡らせる。仲間の誰かであった場合、走ってくる方向からして紅葉パーティの楓だ。

 贅沢は言えないのだが、出来れば逆隣り――グロリアと潜伏キリュウがいる側の面子に来て欲しかった。キリュウの不在が他所のパーティに不審がられる。


 結果的に言えば最悪のケースではないが、最高のケースでもなかった。

 駆け付けたのは楓だ。魔物でなかった事は救いだが、飛び込んで来た彼女には申し訳ない気持ちにかられる。


「大丈夫? 救援に来たわ」

「……ええ。ごめんなさいね。私、魔法アタッカーで。エーミュウの変異種は相手にし辛いの」

「それはいいけれど、貴方は二人組だったんじゃないかしら?」

「……」


 エーミュウに向かって、威嚇の意味合いでの《光撃Ⅰ》を放ち目くらましとした楓が少しばかり棘のある口調で尋ねる。隠していていいはずもないので、彼女を《防壁》内に招きながらユーリアは端的に応じた。


「いないの。逆隣りのグロリアはやはりまだ新人だから、ね」

「へえ。そっちも大変そうねえ。まあ、こちらのパーティは主にリーダーの介護が大変なのだけれど」


 即座に内輪揉めの気配を察してくれたのか、話題を振ったはずの楓は即座にその話題を終了させた。


 世間話は終わり、話はエーミュウの討伐についてに切り替わる。

 困ったな、と楓は目を眇めた。


「呼ばれたから来たけれど、あたしとも相性が悪いわ。魔弓ユーザーなのよね」

「あら、アナタもそうなの? うちのグロリアと似ているのかしら」

「彼女、オールラウンダーなんでしょ? うーん、魔弓で倒したって報告には書かれていたけれど、これどうしたのかしら……。魔弓程の威力があれば、魔法耐性持ちも貫けるということ?」


 ――この子、魔法職なのね……。

 鬼人の性質を持っているから、てっきり物理的な攻撃を仕掛けるのだと思っていた。しかし、よく考えてみればエルフの血も引いている訳で立ち回りが魔法アタッカーだとしてもおかしな点はない。


「一先ず、色々試してみましょ? 楓、アナタは魔弓で攻撃してみて。アタシは《防壁》で攻撃を受けるから」

「それもそうね」


 先程はあっさり蹴り砕かれてしまった《防壁》を二重構造に切り替える。絶えず新しい壁を張り続ける事で、本体を直接攻撃されないようにするそれなりに有名な方法だ。

 その間に楓は矢を生成、これを真正面から再疾走したエーミュウへと放った。

 距離が近すぎるが、射手が巻き込まれる程でもない距離感。《風撃》にて制作された矢はしかし、エーミュウの淡く緑に輝く羽を前にあっさりと打ち消されてしまった。


「えええ……。魔弓で倒すのは難しくない? そっちのグロリアちゃんは、これをどうやって魔弓で倒したって?」

「報告書に書かれていない事は、アタシにも分からないわぁ」

「パーティのメンバーと、そういう話をしないの?」

「グロリアはとても無口なのよ……」


 エーミュウが攻撃された事に怒り、筋肉の付いた脚で《防壁》をガンガンと蹴りつける。絶えず壁を補充しているが、このままではじり貧だ。いずれは魔力が尽き、蹴り砕かれるのは人体となるだろう。


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