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13.探している時はなかなか見つからない(3)

「――……」


 魔弓を取り出しかけてはたと動きを止める。

 思考が二転三転してしまっているが、もっと相応しい武器があるではないか。


 ――そう、木を切り倒すのならばやはり斧。

 この間の巨大なアックスは同時に魔法起動し、軽量化する必要があるので一番に選択肢から外した。代わりに頑張れば片手で振り回せるサイズの手斧にしようかと思案する。片刃、遠心力で振るう武器だ。


 ――うん、それがいい。これにしよう。

 取り出したるは鈍色の刃がセットされた原始的な武器。持ち手の部分に小サイズの魔法石《重量化》のみが装備されている。

 この武器はフルスイングする際、タイミングよく魔法を使用する事で更に威力を高める事が出来るという何とも原始的且つ野蛮な得物だ。至って単純明快、魔法使用のタイミングさえあれば、この小振りの武器から信じがたい威力の一撃を放てる。


 動きを一瞬だけシミュレート。

 まずは先程から杖で水撒きをしている《水撃Ⅳ》を停止。これにより炎が広がるが、それは一度無視する。

 杖はもうその辺に放り捨てて、バングルから《水撃Ⅱ》を使用。再点火される前に突っ込み、《重量化》をタイミング良く発動。そのまま斧本来の使い方で樹精霊・変異種を薪割りし、終了である。

 キリュウはこの魔物に対する手立てを持たないので、これもまた無視だ。無視。


 考えながら《倉庫》から手斧を取り出し、緩く構える。普通に重いので出来れば一振りで決着したいが――


 そんなグロリアの願いを嘲笑うかのように、キリュウが頭上から声を荒げる。


「ぼーっとしている所悪いけれど、また来るぞ!」

「……はい」


 気の利いた返事が思いつかない事にがっかりしながら、足元から生えてきた根を回避する。猛攻ではないが――とかく、熱い。熱すぎる。

 燃え盛る炎を前に額の汗を拭った。

 恐らく時間があまりない。徐々に活動できる範囲が狭くなっているし、このまま放っておけば樹精霊に近づく事すらままならない。


「――は? ちょっと待て、誰だお前。グロリア後ろ!」

「……!?」


 キリュウの慌てた声で振り返る――より先に、背後から伸びて来た手がグロリアを飛び越えて、手に持っていた手斧の持ち手を掴む。


「貸せ。とんでもねぇ所に呼んでくれたな」


 ――わ、忘れてた! 近くに《相談所》時代の仲間がいたんだった……!!

 先程の行動が思わぬ良い結果を生む。

 森の奥からぬっと現れたのは長身、明らかに角を持つ種族。そして背格好からして男性。聞いていた通り、フードで頭部を隠している。

 尤も目で判断するよりも先に、聞こえた声でもう判断できた。


「ベリル……」


 鼻を鳴らしたかつての仲間は、グロリアの手から得物をひったくると、一歩前に進み出た。

 とどのつまり、考える事は同じだ。今一人でやろうとしていた作業の一つをベリルが肩代わりしてくれるのだろう。

 投げ捨てる寸前だった水属性担当杖を握り直す。考えている猶予はないので、《水撃Ⅳ》を再起動した。物理特攻を自分以外の誰かが可能ならば、使用魔法のランクを下げる必要はない。より確実な水量で、燃え盛る炎を鎮火する。


 大雨が降った後のようにぬかるんだ地面を力強く蹴ったベリルが飛び出す。頭まですっぽり覆えるローブが非常にシュールだが、笑っている場合ではないので自重した。

 手斧に装備された魔法《重量化》を完璧なタイミングで使用したベリルが、目を疑う凄まじい速度で手斧を振り下ろす。竜人の、それも男性の腕力で繰り出されたそれは薪を割るなどという表現から懸け離れた、薪を砕くという勢いだ。


 とはいえ、相手は巨木。綺麗に細切れにされた薪の元とは比べるまでもなく巨大だ。故に割るという動作は成功しえない。

 ――が、振り下ろされた手斧は樹精霊の顔面部分を正確にぶち抜き、粉砕する。動物的な器官を手に入れたが為の弱点なのだろうか。腹に響くような重々しい音を立てて背中から倒れた樹精霊・変異種はそのまま動かなくなった。

 見れば、手斧の刃はほとんど木の中に埋まっており、あまりの破壊力にゾッとしたグロリアはそれを見なかった事にする。あんなもの、人間が食らっていればミンチになる事間違いなしだ。


「……はあ」


 意外にも強敵だった樹精霊・変異種が残した火種を完全に消しながら、小さく溜息を吐く。

 どうしてこの魔物は一直線に自分を狙って来たのだろうか。疑問は尽きない。


 手斧を無理矢理引き抜いたベリルが戻ってくる。

 人の物を借りたという意識があるのか、片手で軽々と持ち上げたそれに致命的な傷は無いかを確認。それを終えたタイミングで丁度、グロリアの目の前に立ち塞がった。


「ほらよ。返す。……柄から変な音がしたから、一応鍛冶師に見てもらった方がいいかもな」

「分かった」


 ――あんな勢いで叩きつけたら、そりゃ持ち手も変になるよ……。

 そう思いつつも、助けてもらったのは事実なので礼を述べる。コミュニケーションがヘタクソだと、挨拶だけはきちんとしておかないと大目玉で後々に禍根を残す。随所随所のポイントだけは押さえておかなければ。


「助けてくれて、ありがとう」

「おう。まあ、あの程度なら俺の手も必要ないか。……ところで、さっき頭の上で騒いでいたのはお友達か? お前、置いて行かれたみたいだが」


 指摘されて、ようやくキリュウの存在を思い出す。

 振り返っても、その姿は跡形もなく消えていた。その様子を見ていたベリルが眉間に皺を寄せて首を横に振る。


「流石はヒューマン様。とっととトンズラしたって訳か」


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