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11.探している時はなかなか見つからない(1)

 ***


 グロリアは一人で公園内部を進んでいた。

 木々は鬱蒼と生い茂り、朝であるにも関わらず薄暗い。独りぼっちなのも相俟って気が滅入るのも仕方がないと言うものだ。


 しかし独りでよかった事もある。

 何と、ボンヤリ考え事をし放題だ。いつもお喋りが出来るようなコミュニケーション能力こそ持っていないが、近くに誰かがいれば話にきちんと耳を傾けている。会話に参加する力が無いだけだ。

 が、現状周囲に人はおらず、聞くべき話も会話参加への奮闘もない。少しばかり気が楽なのも事実だ。


 ――ベリル……。《ネルヴァ相談所》が無くなってから、どうしているんだろう。

 解散は一瞬だった。一応、彼にもギルドに入らないかそれとなく声を掛けたが拒否されたのは記憶に新しい。

 彼は極度の他人嫌い。特にヒューマン、獣人等の分母が多い種族は大嫌いだ。常に人付き合いがマイナスからスタートなのは非常に痛いだろう、人の事は言えないけれど。

 唯一慣れていた人物ばかりがいた《ネルヴァ相談所》に強く依存しており、解散が言い渡された時は珍しく表情に出る程のショックを受けていた様子だった。


 また、グロリアとしても彼は《相談所》内でも特別な人物である。グロリアが《相談所》へやって来た当時、一番最後に加入したベリルは自分の面倒を見る係に任命されていた。結果として8年も付き添ってくれた、恩人でもある。


 ――ここにベリルがいるとは限らないけれど、一応捜さないとね。誰かを怪我させてしまったり、怪我をするかもしれないし……。

 ともあれ、誰よりも先に彼を見つけ出さなければ面倒臭い事になるという事態に違いはない。


 グロリアは腰の魔法石が装着されたベルトに手を伸ばした。

 《相談所》での仕事をこなすようになった時、渡されたお守り――と適当に呼んでいる魔法石がある。当時のグロリアは最早子供と言ってもいい年齢であった為、所長が職人ギルドにオーダーメイドで作らせた物だ。

 宿る魔法の効果は、近くにいる《ネルヴァ相談所》のメンバーに自分がいる事を知らせられる、というシンプルなもの。《サーチ》とも連動しており、マップに居場所を無理矢理表示させてくれる。つまり、ここにいるから迎えに来てねを地で行く魔法なのである。

 だが当然――受信する側も同じ魔法石を持っている必要性があるのだけれど。


 使用しない魔法石は邪魔なだけなので、外している可能性が高いが万が一所持していれば捜すのが楽になるので試す価値はある。魔力もさほど消費しない。

 リスクを色々と脳内で思い浮かべつつ、魔法を使用した。


「……え。誰かいる……」


 思わず間の抜けた声が漏れた。

 《サーチ》上に現れたオレンジの点は、件の魔法石を所持している者を示す。また、所持者側にもグロリアが捜していると伝わっている事だろう。

 ――まさか本当にベリルがいる? でも、他のメンバーの可能性もあるか。

 クエスト中でもあるので、大きく道を外れる事は出来ない。誰だか不明だが、向こうから来てもらう必要がある。何せ点は《サーチ》の端に寄っており、範囲外の遠くにいる可能性だってあるのだ。


 考えていたグロリアははたと足を止めた。

 足音が聞こえる。ただし、それは明らかに人間のそれではない。ズドドドド、という猛烈な勢いと人間にしては随分と重量感のある音だ。

 ――これは、そもそも人の足音じゃない!


 一直線に自分へ向かってくるその音にグロリアは身構えた。

 そうして、向かってきた何かの全貌が明らかになる。


 一本の巨大な枯れた木。木目ではなく、虚ろな穴にも見える目と口。簡単な作りであるにも関わらず、すぐに魔物だと分かる外観だ。こういった魔物はよくよく見覚えがある。

 樹精霊だ――ただし、枯れているところなど見た事がないけれど。

 魔物の生態系についてはよく知らないが、樹精霊は老いると枯れるのだろうか。青々と葉を纏う姿はなく、ぼろぼろと崩れ出しそうな程にか細い枝を携えている。


 ――まさか……変異種かな?

 であれば、本来の樹精霊にはない特性を持っているだろう。

 何にせよ、見た目に反してフットワークが面白いくらいに軽いこの魔物は襲い掛かってくる気満々だ。

 魔物の駆除も今回のクエストに含まれる。一旦ベリルの事は忘れ、グロリアは臨戦態勢を取った。


「――おーおー、まるでここに人がいるって分かってるみたいな速度で突っ込んできたな。不思議なもんだ」

「……!?」


 頭の上から声が聞こえたと思った次の瞬間には、ひらりとキリュウが木から降りてきた。その身軽さはとても同じヒューマンだとは思えない。

 否、そんな事よりも。

 キリュウは《サーチ》に写っていなかった。即ち、事情は知らないが《隠密》魔法を使用してずっと自分の後を付いてきていたかもしれないという事だ。

 そんなグロリアの様子を見て、キリュウは肩を竦めた。


「俺が出てきても無反応かい。もしかして、ずっといたのに気づいてたのかね」

「……」


 ――いや、全然気づいてなかったし、何なら凄く驚いているけど?

 またも無表情だったようで、驚きも困惑もキリュウその人には伝わっていないようだ。勝手に勘違いして頷いている彼をに対し、コミュニケーション能力が壊滅的な自分では訂正ができない。


「出てきちまったもんは仕方ないね。取り合えず、こいつを片してから話すか。まあ、グロリアもいるし楽勝楽勝。楽させてもらえて有難いね」


 過剰な持ち上げは止めて欲しい。その一言が、やはり今日も言えないのであった。


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