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09.チーム分けがどう見ても変

 ***


 翌日。


 ギルドの空き部屋に本日のクエストメンバーが集まっているのを見て、グロリアは密かに安堵の溜息を吐いた。

 当然ではあるのだが、Sランカー・紅葉の姿はない。彼女の存在はもう本当に恐ろしいので、いなかったという当然の事実でさえ安心を覚える程だ。


 そうこうしている内に、やはり時間通りに姿を現した本日のリーダーであるイェルドが口を開く。


「おはよう。今日も一日よろしく頼むよ。クエストへ出発する前に、持ち場の確認をしておこう。現地でこんな大きな地図、広げている暇はないからな」


 そう言うと同時、件の大きすぎる地図が机に広げられる。

 それには赤で印や文字が書かれており、理路整然とクエストで遂行すべきあれやこれやが描かれていた。


「あまりそれぞれのグループの間を空けず、徹底的に山狩りを行う。会敵した場合は大勢で掛かりたいから、すぐに煙弾を上げてくれ。救援に行く。それで、グループなんだが5つに分ける事にした」


 ――ああ! そうだった、そういうのがあるんだった!

 心がざわつく。5グループという事は人数の観点から見て1人のグループが複数個存在するという事だ。

 だがしかし、恐らく自分はジークまたはジネットと組まされるだろう。新人を一人で放置する事なぞ、イェルドはそうそうしない。

 ――そう思っていたのだが、発表されたグループを聞いて絶句する。


 ジーク、ジネット。

 ユーリア、キリュウ。

 イェルド。

 楓。

 グロリア。


 それがリーダーの発表だった。二人組の枠を何故かユーリア&キリュウで使い潰している。絶句して無言でいると、即座にイェルドから補足説明が入った。


「すまん、グロリア。キリュウの怪我が少し心配だから今回はユーリアと二人にした。お前はオールラウンダーを持っているから、急に魔物等と出会ってもすぐに押し負ける事は無いはずだ」

「……了解しました」

「ま、俺の怪我は完治してますけどね」


 ――キリュウさん本人がこう言ってますけど!?

 今日も心の叫びは誰の耳にも届かない。当然である。また、巻き添えで一人グループに配属された他所のパーティメンバーである楓は落ち着いたものだった。


「私は一人? 別に構わないけれど、新人ちゃんは一人で大丈夫かしら?」

「ああ、グロリアは問題ない。下手をするとSランク相当に値する戦力だ。尤も、のらりくらりとしていて俺も全力を出し切っている姿なんて見た事が無いが」


 ――今! 今、全力で一人を回避しようとしてるんです! 気付いて!!

 ここで少し心配そうにジークがやんわりと反論してくれた。彼は本当に良い奴だ。


「本当にグロリアは一人で大丈夫でしょうか? いや、俺も一人にされると困りますけど……」

「大丈夫だ。グロリアは戦闘経験に長けている。自分が敵わない相手に、単独で突っ込むような失敗はしないと信頼しているさ」


 持ち上げすぎではないだろうか。

 何にせよ、頑なに自分を複数人グループに指定しないようだ。もう腹を括るしかない。それに考えてみれば一人の方がやりたい事をやりやすい。心細いし寂しいけれど、好都合だと考えて前向きに事を進めるしかないだろう。


 ***


 公園に移動してきた。

 連日の変異種騒動で人っ子一人おらず、いつも以上に静まり返っている。森の浅い場所には家族連れなども見られるはずなのだが。


 そんな不気味な公園を尻目に、チラとジークはグロリアの様子を伺った。

 彼女はいつも通りの無表情で、一人のグループに配属されたというのに何も気負っている様子はないようだ。

 どういうつもりでそういう采配を振るったのか謎だが、自分で配備しておいてイェルドが気遣うようにグロリアへと声を掛ける。


「グロリア、何かあったらすぐに煙を上げてくれ。ユーリア達が――」


「ジーク」


 凛とした声の主はジネットだ。二人組で事に当たるよう指示を受けているので、わざわざ合流しに声をかけてくれたのだろう。

 彼女の事はあまりよく知らない。情報源がグロリアしかいないのだが、彼女も彼女でペラペラと話をするタイプではないのでジネットという同期がいる、程度の知識しか持っていないのだ。


「今日はよろしく。俺はタンクだから、盾として使ってくれて構わない」

「そう。奇遇だね、私は中衛……。あなたが敵を足止めしている間に、全ての敵を処理し更に怪我をしていたら治癒魔法もかけるからすぐに言ってね」

「て、手厚い……! 流石はグロリアの同期、割と色々出来るんだな」

「装備スロットに治癒魔法の石を嵌めているだけだから、ついででしかないけれど」


 話しながら持ち場へ足を向けたその時だった。背中にイェルドから声を掛けられて振り返る。


「ジーク。気を付けて行ってくるんだぞ」

「はい。お任せ下さい」


 ――こういう所、本当にこまめなんだよな、イェルドさん……。

 何人もAランクになれるような人員を育ててきた、Sランカー。流石の細やかさに感心する。

 少しだけ肩の荷が下りたような心持で、ジークとジネットは持ち場のルートを進み始めたのだった。


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