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08.クエスト前日の過ごし方

 ***


「絶対にあいつ、強いと思うんだよな。生で見て分かった。あれは死線を潜り抜けて来た、ホンモノの強者だ。いやあ、血肉湧き踊るよな!」


 ――ああ、私のお友達、グロリア……。紅葉さんに目を付けられてしまっているわ……。

 ミーティング後のランチタイム。熱く語るパーティリーダーの姿を見て、渦中の人物、その同期であるジネットは心中で合掌した。


 言わずもがな、Sランカーの紅葉は見たままの戦闘狂であり、そのせいで人間関係の構築が下手だ。であるにも関わらずその腕っぷしだけで今の地位にまで上り詰めた真正の鬼人。彼女程、欲望に忠実な鬼人族はそうそうお目にかかれないだろう。

 そんな彼女がグロリアを上記のように評価した。もう延々と粘着される事だろう、わが友ながら本当に可哀想だ。


 また、対面の席で紅葉を宥める楓は確かに、と頷く。


「空気感だけで言えば、Sランカーのそれに勝るとも劣らないかもしれないわ。けれど……紅葉さんとやり合うには、まだ少し早すぎるんじゃない?」

「そんな事ないって。お前も鬼の血が混ざってるなら分かるだろ。あれもう、完成形なんだって!」

「経験値がまだまだ足りないはずだと思うのだけれど。だって彼女、えーっと、幾つだったかな……」


 楓が記憶を漁る中、同期のジネットは問いに的確な回答を寄越した。


「19歳です。楓さん」

「ああ、流石はジネット! 本当にいつも手厚いから大好きになっちゃう」


 数字を聞いた我等がリーダーは楽し気に手を打つ。どうやらよろしい情報だったようだ。


「いいじゃん! 確実に今が肉体のピークだろ。あいつ確か、ヒューマンだったよな? よしよし、どうにかイェルドの石頭を丸め込んで試合たいな」

「それが一番難しいんじゃない?」

「そうなんだよなあ……。あ! ジネットお前、同期なんだろ。どうにかしてグロリアの方に話を通せよ! 本人が良いって言えば、良いだろ。知らんけど」


 ちょっと、と楓が眉根を寄せる。


「そういう騙し討ちみたいなの、イェルドさんが許すとは思えないわ。ジネット、あんまり気にしなくていいからね」

「いえ……。グロリアも投影室で手合わせ程度なら要求を呑むかもしれませんし、話だけならしてみます。返事があれば、こちらで日程を調整、且つ安全面を検討しもう一度紅葉さんに伝えます」

「もう全部やってくれるじゃん。お前って本当にそういう細々したやつに手厚いよな……。私はそういうの、ごめんだけど」


 こうして天下のSランカー紅葉パーティのランチタイムは過ぎて行った。


 ***


 一方で自分の噂話がギルドの食堂にて大声で交わされているなど露知らず、グロリア本人は帰宅していた。

 明日が早いし、今日は何もクエストを受けない事が確定してしまったので即座に帰り明日に備えようと思ったのだ。それに、計画と言うかクエスト中ついでにこなしたい事を整理する時間も必要だ。おつむが弱いので事前にあれをやるこれをやる、くらいの簡単な段取りを決めておかなければ当日慌てるのである。


 まずやらなければならない事。

 前提としてクエストの遂行。今回は他所のパーティからもメンバーが入ってくるくらいに大規模なクエストだ。失敗は許されず、一人の失敗で多方面に迷惑が掛かるだろう。故に何よりも優先するべきはお仕事。


 あくまで第二目標とはなるが、次点でやりたい事はキリュウを襲った竜人の特定。

 《ネルヴァ相談所》時代の仲間である可能性がそこそこあり、そうであれば説明だけで済むので比較的楽になるかもしれない。ただし別人だった場合、下手に突けば戦闘になる恐れがある。

 ――戦う羽目になるのは一番最悪のケースだが、もっと最悪なのは一人で相手を処理できなかったパターンだ。何故こうなったのかを、説明しなければいけなくなるだろう。

 竜人は基本スペックが高く、魔力量も多いあらゆる種族の上位互換種。戦闘慣れしている竜人に勝てるビジョンは浮かばないが果たして。


 更にベリルの件はもっと面倒な事に《レヴェリー》のギルド員に、彼が見つかる前に見つけ出さなければならないという条件もある。誰かが先に奴と邂逅した場合、キリュウの比にはならない怪我をするかもしれない。

 何せ奴は重度の人間嫌い。基本的に攻撃的だと思っていいのに、キリュウの一件で竜人の不審者がいると周囲に刷り込まれている。碌な会話もなくドンパチ始まるだろう。


 ――とにかく、何があっても私が最初に件の竜人を見つける! これしかない。


 もう一度そう決意し、装備品の見直しを始める。

 普段使いの魔法石がセットされたベルトから、要らない魔法石を一つ取り除いた。最悪、無くてもどうにかなる装備品をだ。

 代わりに分かりやすいようにか青で着色された魔法石をベルトの窪みにはめ込む。

 これは《相談所》時代、まだ子供だったグロリアにオーダーメイドで所長が作ってくれたお守り。近くにいる《相談所》のメンバーに自分の存在を知らせる為だけの魔法だ。もうベリルは受信用の魔法石を持っていないかもしれないが、万が一持っていた場合はこれ一つで全てが解決する。


 ――明日、忙しいけど頑張ろう。でも何事も起きないのが一番だけど!


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