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05.合同クエスト説明会(2)

「――顔合わせも終わった事だし、本題に入るとしようか」


 この場において唯一のSランカーであるイェルドがそう切り出した事により、もともと騒がしくは無かったこの会議室に完全な静寂が訪れる。変に緊張してしまったグロリアはひっそりと背筋を伸ばした。

 緩やかに穏やかに、全くいつも通りの態度を崩さない我らがリーダーが言葉を続ける。


「楓とジネットに関しては、人数が少ない俺達のパーティの補助に来てくれて助かる。今回は俺が取り仕切るが、紅葉が必要と言うのであればこちらからも人手を貸そう」

「いいえ、イェルドさん。困った時はお互い様……そうでしょう?」


 うっすらと笑みを浮かべた楓が言う。ここまでは形式美。必要最低限のご挨拶である。


「けれど――我々パーティの引率は後日……他意は無いのだけれど、念の為伝えておきますね」

「はは。普通に言ってくれれば人は貸すぞ、うん。誰が行くかは分からないが」


 ――ええー、ワンチャン貸し出される可能性あるのかー……。

 紅葉は一方的に苦手意識を持っているが、当然話した事も無ければ顔を合わせた事も無い。だけれど鬼人の師曰く自分は「目につく」らしいのできっと吹っかけられるのだろう。


「ところで、リーダー? クエストの内容は何かしら? 紅葉パーティの2人は訳知りのようだけれど、こちらはまだ何も聞いていないわ」


 ユーリアの一言に応じる形でリーダーがクエストの説明を始める。


「ああ、悪い。今回のクエストは時季外れの自然公園調査だ」

「決められた時期にやるあれね」


 キリュウが面倒臭そうに眉根を寄せた。当然、グロリアには何の話か分からないしそれは同時期にパーティへ加入したジークも同じだ。


「自然公園の調査……は、グロリアとジークが体験してないな。周期的に調査クエストが回ってくるんだ。あの広さだからな。放置しておくと犯罪者の温床になりかねないが、騎士団を動かすような一大イベントでもない。こうして俺達にお上からクエストが下りてくるって訳さ」

「勿論、何か大きな問題が生じれば偉大な騎士団とやらが引き継ぐ事もあるわよぉ。アタシは見た事が無いけれど」

「そういう訳だからあまり気負わずに――と、言いたいところだが今回は事情が異なるな。調査に加えて変異種の駆除、操者の捕縛がセットで付いてきている。いつも通り、山賊崩れだの、ちょっと成長した大狼だのが相手じゃないのは肝に銘じておいてくれ」


 連日の変異種騒動でようやく王国も重い腰を上げたらしい。イーランド自然公園は大陸のど真ん中に陣取るグレー地帯。どこの国が調査をするかでも一悶着あったであろう事は想像に難くない。

 ところで、とここで黙っていたキリュウが小首を傾げる。しかし片手は小さな輪を形作っており、何を聞こうとしているかは明白だ。


「報酬はどうなんです? いつもの調査と同じじゃ割に合わないっすわ」

「はは、貪欲なのは悪い事じゃないな。勿論、いつもの調査よりかなり高額の報酬が支払われる」

「成程。俺は貰うものを貰えれば何でもいいんで、それなら特に言う事は無いですね」

「うーん、ギルド員のあるべき姿だなあ……」


 イェルドは苦笑しているが、報酬は大事だ。キリュウの気持ちも痛い程理解できる。リスクの大きいクエストでいつもの同じ報酬だった時程、気落ちする事はない。


「どんな風に探索します? イェルドさん」


 ゲストの楓がそう尋ねた事により、話が本筋に戻る。


「5組くらいに分けて、全員で北を目指すように移動しようと思う。虱潰しってやつかな。何度も往復したくはないし、それが一番確実だ。が、当然5組になど分けてしまえば単独行動者が出る。揉める事が予想されるので、俺が明日までに考えておこう」

「隣の組と何かあれば助け合うという事でしょうか?」

「ああ。怪我のリスクも減らしたいし、無理に単独で行動させたりカバーさせないなんて事にはならないさ」


 ここで少し不安げな顔をしたのはジークだ。彼は基本的にあまり感情を表に出さないタイプなのでやや珍しい。変異種の魔物が現れるようになってから、よく顔色を悪くしているのでイレギュラーな出来事が苦手なのかもしれない。

 そう考察していると、獣人の彼は首を傾げながらリーダーに問い掛けた。


「5組に分かれる……というのは、やはりすぐには決められないでしょうか?」

「すまん、俺も急に言われたからまだ選定まで着手できていないんだ。だが心配しないでくれ、ちゃんと考えて組ませる」

「ええ。イェルドさんがそう言うのなら」


 他に質問が上がらないし、イェルドも色々と考えるべき事が山積みだったからか早々に切り上げる姿勢へとシフトする。


「もう聞きたい事はないかな。まあ、俺は今日一日ギルドにいるし、何かあれば声を掛けてくれ。それじゃあ、解散――」


 そんなタイミングだった、まさにその瞬間。

 ノックも無しに外からドアが開けられた。挨拶も一言の断りもなく、突如現れた鬼人の女性はこう宣う。


「よう。作戦会議とやらは終わった?」

「――紅葉……」


 げんなりした顔のリーダーと、発した言葉を聞いてすぐに理解する。今まさに突如現れたこの鬼人の女性こそが、《レヴェリー》の誇るSランカー2人目、紅葉であると。生で見るのは初めてだが、まさに鬼人然とした鬼女と呼ばれるに相応しい振る舞いだと思う。


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