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03.キリュウからの情報

 ***


 ――急に会いに行って、迷惑がられるだろうな……。あの人、一人でいるのが好きそうだし。


 人気のないギルドの廊下を歩きながら、グロリアは内心でぐったりと盛大な溜息を吐いていた。手には《サーチ》でミニマップを表示させ、時折生物の動向をチェックしている。

 そう、実は今、パーティ内のアサシンであるキリュウを捜しているのだ。というのも件の竜人の件をもう少し詳しく聞きたいと思ったからである。


 キリュウを捜すのは基本的に骨が折れる。彼はれっきとしたヒューマンだが、とにかく身軽で気配が薄く、人通りが多い場所にいる事が少ない。ギルド内にいるのは知っているが、人気のないどのあたりに陣取っているかまでは分からなかった。

 なのでこうして《サーチ》を用いて大抵のギルド員が寄り付かない場所にある点を一つ一つチェックしているという訳だ。流石のキリュウも隠密行動時以外で《隠密》の魔法を使用し、身を潜めているという事は無いだろう。きっと。


「――見つけた」


 ようやくヒットした。点の位置を追い、視線を外へ向ける。

 敷地内に生えている大木の枝、まるで猫か何かのように腹ばいで寝そべっているのを発見。グロリアがうろうろしているのに気づいていたのだろう。その視線はこちらへと向けられており、少し物珍しそうな顔をしている。

 見つめ合っていても仕方がない。

 グロリアは窓を開け、ようやくキリュウと対面を果たした。先に口を開いたのはコミュ障を拗らせている誰かではなく、コミュニケーション自体は円滑に行える気流の方だ。


「さっきからもしかして俺を捜してんのかね? ご苦労な事で」

「そう」

「……あ、マジで捜してたわけ? へえ、イェルドさんに言われて来たの?」

「いいえ。少し、聞きたい事があって」

「え、俺に? えー、お前にそれを言われると少し恐いな」


 どういう意味だそれは。

 疑問は言葉にならなかった。一方でキリュウはとうとうその身体を起こし、窓を伝って廊下に降り立つ。実に猫のような軽やかさだ。とても同じヒューマンとは思えない。そんな彼はこちらへ向き直ると、首を傾げて話の続きを促した。


「それで? 俺に聞きたい事って?」

「貴方を襲った、竜人について。もう少し詳しく教えて欲しいです」


 出来るだけやんわりとそう尋ねたはずだが失敗したのだろうか。

 一瞬だけ真顔になったキリュウにそう思わざるを得ない。が、いつも通り気の抜けた表情へすぐに変わる。


「詳しく、つってもな。医務室で話した事が大体全てなんだけど」

「……どんな体格でした?」

「体格ねえ、体格……。そういう事を聞きたいのか……。んー、まあ前提として相手は大き目のローブを着込んでいた。だから顔は分からないから聞かないでくれよ」

「はい」


 キリュウからじっと見下ろされるが、反応に困ったのでスルーした。見るな、とも言えないし仕方がない。


「体格だけど、たぶん筋肉質だな。ローブはあんまり余っていなかったし、そこそこ筋肉量がありそうだった。一言で表すなら……筋肉質な細身でイメージされる人物像より、更に少し太い感じか? 言葉って難しいな」

「角を入れた身長は?」

「俺より高かったよ」

「もしかして2メートルくらいありそう?」

「今日はよく喋るね。ご明察通り、そうさな、このくらいの身長かな。地面が平らじゃなかったから正確には分からんが」


 そう言ってキリュウが手を水平にし、自分の頭より少し高い位置を示す。概ね予想通りのサイズ感だ。


「――低めの声だった?」

「もしかして具体的なイメージがあってそんな事を聞いてんのかい? さあ、声は聴いてないな」

「そうですか」


 ――いややっぱり……ベリルっぽいなあ……。

 尤も、竜人などそんなにたくさん会った事は無い。皆似たような背格好の可能性も十分にあり得る。

 が、ネルヴァの名前に引き寄せられて自然公園に現れた可能性も全く否定は出来ないが。そもそも彼、今は何をしているのだろうか? 重度の人嫌いで生きていくのが自分以上に大変そうなのだが。


「あのさあ、今日は俺とお話してくれるからノリで聞くけど……。なに? あの竜人、お前さんの知り合いなの?」

「……分かりません」

「知り合いに竜人とか、交友関係が謎過ぎるな。俺、襲撃受けてんだけど。グロリアちゃん、俺達の事をパーティの仲間だって説明してくれない?」


 ――本当にベリルだった場合、紹介したくないなー……。あの人等、私と違って悪い意味で知名度高そうだし、ギルド解雇されたりしないよね?

 返事に窮したので黙り込んでしまうと、やれやれと言わんばかりにキリュウが肩を竦める。あんまりしつこくないのはありがたい。


「まあ何でもいいけど……変な犯罪とか起こさないでくれよ。イェルドさんが巻き込まれるだろ」

「そんな予定はありません」

「今からそんな予定が存在してたら恐すぎるだろ……。ええー、ジョーク? ジョークなの、それ」


 話が途切れたタイミングで、キリュウが大きなあくびをした。もうパーティメンバーとのお喋りにも飽きてきたのだろう。


「ありがとうございました」

「ん? あー、ま、変な事に首突っ込むなよ。お前さんなら大丈夫そうだが……リーダーが気にするし」

「……?」

「繊細な所っていうか、あるんだよ。そういうのが。んー、俺としては……気になる事があるのなら、前もってイェルドさんに話しておいた方がいいと思うがね。プライベートな事かもしれないし、判断は任せるけど」


 それだけ言ったキリュウは再び窓から枝へと戻って行った。さっさと目を閉じてしまったあたり、話は終わりという事だろう。


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